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2017年4月25日 (火)

六【一年目】 ベルギー到着

 その夏のブリュッセルは素晴らしい天気だった。短い夏の真っ盛りに到着したものだから、てっきり年中そうなんじゃないかと勘違いしてしまう。

 今でも鮮明に覚えているのは、空港に着いて、初めて会う先輩に出迎えられた瞬間である。一目で私は、彼女のことが大好きになった。ピアニスト、アキカさん。奈良先生が紹介してくれた、留学生活の大先輩である。彼女は私を探してくれて、開口一番、

「ああ、きっとあの子だろうなって思ってたの。え、荷物、それだけ?!」

 と言った。

 こんなボロい、黒のビニール袋みたいなカバンひとつで留学してきた子は見たことないわ、と、そこまでは言わなかったが、こんなカバンひとつで来た子はいないと彼女は笑った。素敵な笑顔。今でも大好きなピアニストである。出会いって、素晴らしい。

 それから私は車に乗せてもらい、住所を頼りに、あらかじめ日本から予約しておいた日本人経営のアパートメントホテルに連れて行ってもらった。出張のパパなんかが会社からあてがわれて利用するらしいアパルトマンだ。食器や洗濯機や簡単な生活用品が揃ってて、一ヶ月で十二万円くらい。後から知ったんだけど、ブリュッセルの相場だとベラボーに高い値段で、先輩方に、早く出なさいと口々に言われた。運良く、ちょうど結婚して部屋を出るピアニストの先輩がいたので、入試に合格してからそちらへ移り住んだ。

 ほらね、持ち金百万なんて、すぐに消え去るものである。ビンボーだからと宣伝しておいたって、自分のために開いてくれた集まりを断るわけにもいかないし、初めのうちは会食やらですぐにお金はなくなった。話がすぐお金のことになるが、本当に留学時代は貧乏だったので仕方ない。それでも不思議なことに、日本にいてお金がないと非常にストレスがたまるが、ヨーロッパにいると何も感じなかった。勉強したいという目的があったし、娯楽よりも、自然や町並みの美しさの中にいると、心が満たされた。カッコつけてるみたいだけど、本当のことである。

 そういうわけで、私の留学生活は、最初の二週間は高級アパートメントホテル、それから先は、家賃三万五千円の半地下室で四年間、ダンゴムシやネズミたちと一緒に始まったのであった。

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