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2017年4月27日 (木)

十三 フランス語

 私のフランス語は、三ヶ月、六ヶ月と時間の経つうちに、徐々に成長して行った。

 最初の三ヶ月間は、なるべく安いフランス語教室を見つけてきて、そこへ通った。はじめのうちは何十人もいた生徒たちがどんどんやめていき、最後には十人に満たないクラスとなった。スペイン人、アメリカ人、インド人、色んな国籍の人たちが、フランス語をフランス語で習う。みんな、初めて習う人たちばかりで、最初のうちは日本でいくらかかじってきた私が一番良く理解できていたんだけど、途中で見事に抜かされた。だって、スペイン語なんてなおさら、フランス語の親戚みたいなもんである。ほとんどが似ているんだから、当たり前なのである。

 先生はエリックという男の先生で、私は初めてこの時、ああ、言葉は違っても相性の良し悪しというのは世界共通なのだなと思った。先生とは気が合ったので、授業はとても楽しかった。面白かったのは、動物の名前を覚えている時に、ニワトリの鳴き方をそれぞれ自分の国では何と発音するか、という話になった時だった。

 みんなそれぞれ、それらしいカッコイイ発音でニワトリを真似ていく。私の番になって、それ、とばかりに
「コーケコッコー!」
 と言うと、全員、大爆笑となった。

 それから、家族の呼び名の授業になった時。
家系図をホワイトボードに書き、自分がいて、お父さんお母さんがいて、おじいちゃんおばあちゃん、そして従兄弟、叔父叔母…

 カオルの親戚は、何という名前なの?
 と訊かれた時、私は、今まで「叔父さん、叔母さん」としか呼んでいなかったことに気付いた。父方の祖父母の名前もまた、知らなかったのだ。物心つく前に亡くなっていて、その名を呼んだことはなかった。

 一生懸命、日本の事情をつたないフランス語で説明したが、皆理解に苦しんでいた模様である。欧州では全て名前で呼び合うのが普通であり、日本の風習なんてわからなかっただろうなァ。

 そんなわけで、私は最初の三ヶ月間でフランス語教室を終え、ずっと後になってから家庭教師のバージバン先生に教わるようになるまで独学で、めちゃくちゃな会話を大いに楽しんでいたのみである。それでも何とか、まずは相手の言葉を聞き取れるようになり、だんだんと会話ができるようになってくる。自力で処理しなくてはいけない役所、公共機関、学校の手続きなども、否応なしにフランス語能力を上げてくれるのであった。日本に帰って、日本語を喋れるのなら、どんなことにだって負けちゃいないぞ!と留学生たちは全員、そう言って怒っていた。

 一緒に住んでいた大家さんたちにしばしば助けてもらいながら、私のコミュニケーションは笑顔とジェスチャーだけが最大の武器であったのである。

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