二 どの国へ
留学したい。
そう思っても、卒業と同時にすぐに行けるものではない。大学の掲示板に張り出される就職募集一覧のように、「留学生募集」などと募ってあるものは一枚もない。
さあ、どうするか。
私はどうしても卒業年のうちに渡欧したかった。何故かって、前に述べた邪道な考えがあるからである。少しも時間を無駄にしたくない。すぐにでもどこかへ飛び立ちたい。
お金。それならば、どうにでもなる。いや、ならないかもしれないが、金は天下のまわりものと言うし、工面することはできるかもしれない。だけどいくら、留学したいと騒いでみたって、一体何処へ、誰のツテで行けばよいのか。それが問題だった。
在学中に何度かレッスンを受けた、海外の先生たち。まず思いつくのは、在学中に行ったイタリアであったが、タイミングの悪いことに今は受け入れがないと言う。親が大反対の私としては、条件もまず、学費がかからないことが前提である。私の師匠が留学していたポーランドも、当時と違って外国人からは学費を年間百万くらい取るようになってしまっていた。国立なんだけど、どうして外国人にまで税金を払わなければいけないのか、ということなんらしい。納得である。どうしようかなァ。とブツブツ悩んでいたところへ、私の先輩のヨシミちゃんがこう言った。
「ベルギーにすれば?ワッフル美味しそうだし。」 そうか、ベルギー!ピーン、と来る。
早速、師匠に報告。
「おー、ベルギーかァ。ちょうどヨーロッパの中心部で、いいかもしれねぇな。ベルギーって言ったら、奈良さんが王立のコンセルヴァトワールから帰ってきてたな。ちょっと、世話になってみるか…。」
どうですこの単純な理由。
それで私の渡欧先は、インスピレーションのみであっけなく決まったのである。
そして、帰国して間もない、大学で教えていらっしゃったピアニストの奈良先生に深々と頭を下げ、ベルギー王立ブリュッセル音楽院について話を聞き、入試の八月に向けて現地にファックスを送り、読めないフランス語の入試要項を受け取り、膨大な入試曲の譜読みと学科の試験準備と同時に、私は資金を貯めるべく、バイトをガンガンに入れ始めるのであった。
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