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2017年5月25日 (木)

六十二 ピアノ実技、悲願のプリ取得

 翌日は、何日かに渡って行われたピアノ実技の最終試験日であった。

 腰の痛みはとれたものの、疲れた身体を引きずって、他の学生たちの本番を聴きに行く。ちょうど、最優秀プリの子の演奏を聴き逃したので、惜しかった。私はドキドキしながら、得点発表を待つ。

 私は何と、八十七、五点をとった!八十点以上が合格、去年は七十五点で落第であったから、十点以上、上回る得点である。ユキは八十四点、今年入ってきた優秀な友人は、さすがの九十、五点。コルニル門下生の日本人たちは、そろって今年、合格となる。

 私は嬉しくて嬉しくて、涙が出そうであった。でもまだ、涙は後にとっておく。納得いかねぇと言わんばかりの顔をしたユキが立っていたし、それに、ひたすらそばで支えてくれていたよっちゃんのために、とっておきたかった。

 本当に、音楽なんて点数じゃない。だけどその得点が評価として発表になる以上、それは学生たちにとって、非常に重要な基準になったりもする。ユキはとてもサッパリとした性格の、イイ女だったので、悔しいだろうに、こういう時は素直に私の点数を祝ってくれ、一緒に喜べなくてゴメン、と言い残して帰って行った。私には、何も言う言葉がなかった。去年は彼女の方が点数は良かったし、そんなのはジュリーの決めることだ、と思っていたとしても、私からは何も言うべきではないと思ったからだ。

 私は帰りのトラム(路面電車)の中で、一人、感動のあまり、涙をこらえていた。ずっと耐えていたので、不意に、下車した時によっちゃんの知り合いたちに会った時、思わずフライングして泣いてしまう。彼らに、逆に感動されたのを覚えている。

 そして私たちは、いつもよく行く美味しいアイス屋さんの近くにある、フランス料理屋で祝杯をあげた。私は、和声のことより何より、もうこれでもし日本に帰っても悔いはない、という踏ん切りがついた。一緒に、この暗いブリュッセルでの下積み生活で、泣き笑いを共にしたよっちゃんにも、感謝の気持ちで一杯になっていた。

 これでもう、サッパリした。この一年間、本当によくやった。心からの清々しい気持ち。試験までの、悶々とした日々のトンネルから抜けて、私の心には光が差していた。解放感である。

 そしてその解放感から覚めた時、私はこの後さらに一年間、継続して卒業証書を取ることにするか、それとも実技でプリを取ったことでヨシとして日本に帰国するか、またもや悶々と悩み始めるのである。

 本音を言うと、とってもとっても帰りたかった。何故なら、もうすでに限界を迎えつつある、遠距離恋愛のお相手が、東北の地には居たからである。

 

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