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2017年5月12日 (金)

四十二 猫のプー、ネズミと闘う

 十月に入ると、ニースに語学留学していた私の高校時代の友人が遊びに来た。

 彼女はとても頭の切れる美人で、だけどたまにドジ、という可愛い奴である。名前をミキちゃんと言う。今は、高校時代から上手かった料理の腕を生かして、料理教室の先生をやっている。通称、もっと違うあだ名で呼んでいたがそれはまあいい。とにかく彼女は、フランスに着いて少し落ち着いた頃、ブリュッセルに来てくれた。

 ちょうどその頃、依然としてネズミに悩まされてはいたが、うちには頼もしい味方、プーすけという猫がいた。よっちゃんが、目に入れても痛くないほど可愛がって育ててくれていたので、それはおっとりとした、可愛い性格の猫であった。どちらかと言うと、賢い猫ではなかったが、のんびりして悪さをしないところは助かっていた。猫はボーッとした子に限る。そして、ネズミはパタッとその姿を消していた。

 ミキちゃんが来て、私たちはブルージュへ遊びに行ったり、カフェや公園の昼下がりを楽しんだりしていた。一週間弱くらいの間、寒いところは苦手なくせに、ベルギーを堪能していたと思う。

 ある日、ミキと半地下の部屋にいる時に、プーすけが何やら部屋の隅を追いかけまわして大興奮しだした。どうしたんだろう?と思って近づいて見ると、なんと、口からしっぽが出ている。ネズミをくわえているのだ!私たちは、青ざめた。どうしよう?そして思わず、顔を見合わせた。すると勇敢なミキ様が、

「プーちゃ〜ん、ちょ〜っと貸してごら〜ん?ホラホラ、いい子だから…」

 とか言いながら、おそるおそる、そ〜っと口に手を入れて、ネズミを捕まえたのだ。

 プーは大事な獲物をとられまいとして唸っていたが、根がおっとり屋なので、仕方なく獲物を差し出した。

 ぶら〜ん。ミキの手から、ネズミがぶらさがっている。もう、観念しました、と言わんばかり。私たちは、うろたえた。と言うか、ミキがうろたえていた。こ、これ、どうしよう!と言って、とりあえず庭に出る。咄嗟のことに、どうしようもできない。

「な、投げちゃえ!」
 と私は言った。ミキは思い切り、庭の奥の森へ向かって、え〜い。と投げ、ネズミは遠く彼方へ飛んで行った。

 今思い出しても二人で笑える光景である。だが、ネズミは投げてもまた戻って来る。

 その後、彼女が無事フランスへ帰った後、冬になって、もう一度プーが大興奮をし、何と十五分間で七匹連続、小ネズミらを捕獲した事件が起こった。私はいざ、その時のために用意しておいた手袋をはめ、一匹ずつ口から取り出しては、捕獲用の缶カンの中に入れた。

 缶の中でピョンピョン飛び跳ねているネズミたちを、車に乗せて、遠くの森まで捨てに行った私。ユキやアキカさんに話すとゲラゲラと大笑いされた。ブリュッセルでは猫ブームで、彼女たちも猫を飼っていた。ユキの猫のサリーなど、日本に帰国した今でも二十一歳という大婆ちゃん猫として、元気に関西で暮らしている。

 それ以来、ネズミたちと顔を合わせることはパッタリとなくなった。きっとあれは、ネズミの親子たちだったのだろう。決死の大移動中だったのかもしれない。

 それにしても、いくらおっとりした猫でも、本能というのはすごい。動物の本能というものは退化せず、便利になった今日でもちゃあんと、その能力は発揮されるものなのだ。

 というわけで、プーが大健闘した話。
 今は亡き、プーすけの武勇伝として、ここに記します。

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