« 四十七 誕生日プレゼント | トップページ | 四十九 ラストスパート »

2017年5月16日 (火)

四十八 彼氏、二度目のベルギー到来

 東北の彼氏は、日本からの直行便、サベナエアーでやって来た。よっ、社会人は違うねっ。私など学生には、とても高くて買えないチケットである。

 何度目の再会だろう。何回会っても、はじめは彼の、阿部ちゃんさながらの顔の濃さにびっくりさせられる。でもその次に、本当に私の良き理解者だなあと、ホッとする。自分でもまあ、わかりやすい性格だとは思うけど、でもこんなに自由奔放な私を放ったらかしにできる奴も、そうそういない。

 彼は待ってましたとばかりに、ホワイトビールを飲んだ。そして、ベルギーにイギリスからチャリンコでやって来た当時、お世話になった先輩方や、大使館の方々にお呼ばれの歓迎を受けた。私は現在の友人たちに紹介したりもした。そして、ずいぶん上達した私のフランス語をとても嬉しがって、よくここまで喋れるようになったね、偉い偉いと、親のようにしみじみ感心したりした。

 ちょうどその頃、先輩アキカさんは、日本の学校から仕事の話が舞い込み、長い留学生活に幕を閉じて帰国するかどうか、大いに迷っていたところであった。アンリオ先生は、「母国からの扉を自ら閉ざすことはない!」とおっしゃっていたし、彼女もそれをよくわかっていたのだけれど、感情というものはそうもいかない。私だって、悩む。留学生というのは皆、なんだか知らないけれどそのうち向こうの生活が長くなり、だんだんとそこに根付き、三年の壁、五年の壁、そして十年の壁を越してしまったらもう日本には戻れなくなる、と言うジンクスがあるくらいであった。彼女はそんな渦中であったのに、私たちを温かく迎えて下さり、もてなしていただいた。

 そしてブリュッセルだけでは飽き足らない彼は、ロンドンへも遊びに行ったりしていた。その間、私はモーレツにピアノを弾く。レッスンも入った。彼の到来により、おかげさまで、音楽的にはとても良くなってきたけれど、暗譜が浮かれている感じである。気を引き締めねば。

 友人、ユキはそんな私をからかい、ウワサの東北の彼とも面白半分、好奇心半分で、タバコをスパスパと吸いながら会ってくれた。

 後から聞いた話によると、彼の方はユキにさりげなく、私に現地で彼氏はいるのか、聞き出そうとしたらしい。ユキはしらばっくれて、「ご自分で聞いたら〜?」などと言い、「そっちこそどうなのよ?」とするどいツッコミを入れた。彼の方は、「まあ、通り過ぎた女の人は何人かいたけど。惚れた女性は、いませんでした。」と、あっさり認めていたと言う。

 だから、私にいないなんておかしい、それなのに何故カオルは隠すんだろう。と言ってたよ、とニヤけるユキちん。そりゃそうである。口が裂けても言うもんか。薄々わかってはいるだろうし、それだけで十分である。それに、彼がキスしようとからかっていた、あの感じの悪い男に出くわし、「あれ〜、久しぶりじゃない?こりゃまた、別の新しい男かと思ったヨ。」とか余計なことを言われただけでも、十分である。こやつは本当に、お勉強はできるんだろうが、自分がフラれた女の子には嫌味を言うしか能のない人物であった。

 さて、彼は美味しいブリュッセルのビールやムール貝をお腹いっぱい食べ、大満足で帰って行った。電話だけでは足りなかった、たくさんの積もる話をし、頑張ってプルミエプリ取って来いよ、オレも早く中国で仕事ができるように頑張るから。と言って、またもや未来の約束などせずに、抱き寄せてもらっただけで別れた。

 私にはそれで満足であったが、当然、寂しい思いも後には残った。それはその時、すでに三年目の延長のことをぼんやりと考え始めていたからでもあったかもしれない。二人の見えない未来は続く。この先、本当に一緒にいられることができるのだろうか、今度は彼の方がまた、海外に行ってしまうことになるのではないか。

 よくぞ続いている自分たちの気持ちに感心しながらも、私は毎度毎度、精神を試されているかのようで、ため息をつくのであった。

 今は苦しいけれど、最終的に、この留学が自分にとって本当にためになったと思える日が来るかもしれない。そう、当時の日記の一ページには、記されてある。

« 四十七 誕生日プレゼント | トップページ | 四十九 ラストスパート »

ピアニストMama♪ 留学白書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/605244/65282812

この記事へのトラックバック一覧です: 四十八 彼氏、二度目のベルギー到来:

« 四十七 誕生日プレゼント | トップページ | 四十九 ラストスパート »

フォト
無料ブログはココログ