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2017年5月23日 (火)

五十七 二年目の和声試験

 和声の試験は、まずいきなり中級のモワイアンから。しかも、日曜日に行われた。

 金曜日の和声の授業で、メルクス先生に、「クラージュ(頑張って来い)、カオル!」と励まされ、そして大使館コンサートが無事終わったことを東北の彼に告げ、日曜はいざ、弁当を持って八時からコンセルヴァトワールへと向かう。

 この日の課題は、バスだった。バス課題とは、ヘ音記号の旋律がA4五線紙一枚分に書かれた問題の上に、ソプラノ、アルト、テノールの旋律を付けて、一つの美しい曲にする、というものである。大きなピアノ付きの部屋に一人ずつ缶詰になって行う。私は四時過ぎまで、ねばった。確か二時間ずつ、交代で部屋替えをするんだけど、その二時間があっという間に過ぎた。腰と背中が痛む。コンセルヴァトワールの門を出る頃の、夕暮れ時の空気を吸い込みながら、ヨロヨロと、終わった達成感と共に帰宅する。

 その二日後にまた、今度は初級アンフェリウールのバス課題日が来る。
初級は中級に比べて簡単だから、十二時半には終わった。学食へ行くと、友人たちがいて一緒に食事をした。ここの学食は、スープとマッシュポテトがお決まりで、それにウサギの肉やら、サラダやらが付くのだが、けっこうイケた。今でも思い出すと懐かしい。

 私は試験日の合間に、東北の彼にたびたび電話をかける。今読み返すと、別れが迫っている割には、笑える二人である。

「あっ、居たっ。かけなおせー!」
 のお決まりトークから始まり、彼は会話の中でぽつりと
「オンナでも作ろっかナ〜。」と吐く。

 私はまったく動じていなくて、
「エー、嬉しい!仕事三昧だったのに、久々にそういう色気のあるセリフ!」
 と、本気で言って、私たちは大笑いしている。

 こういうところが多分、彼と私は、合っていた。お互いにみなぎる、根拠のない自信。取り繕っていないから、お互いちっとも、苦しくはなかった。まあ、彼自身は、嫉妬深い男だヨ〜と言ってはいるが、それを上回るプライドが、それに勘付かせなかったのかもしれない。とにかく私たちは、未だに仲がよいことは確かである。人間として。

 話がずれたが、和声の試験中である。

 お次はアンフェリウール(初級)のソプラノ課題。当日の朝、ユキに出くわし、昨日の彼氏との電話内容を話して大笑いをしながら、同じくらいの時間に終わったら、一緒に昼食を食べようと約束をした。

 彼女は十一時半頃に終わったが、私は途中で膨大なミスに気付き、修正していたら十二時半までかかってしまった。彼女は時刻入りの置き手紙を残し、五分差で帰ってしまう。今ならメールで一言、もうすぐ終わるから待ってて!なんて伝えられるけれど、置き手紙だなんて、粋な時代だったものである。

 そんなこんなで、あとは中級のソプラノ課題を残し、お先に初級アンフェリウールの運命の合格発表が張り出されるのであった。

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