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2017年5月24日 (水)

五十九 中級、不合格

 六月八日、パリへ。

 十二時のTGVに乗り、パリ郊外のルーブシエンヌに着いたら、アンリオ先生が
「遅刻だよ、三時の約束だ。」
 と言っていた。アレ?三時半だと思っていたのに。こういう行き違いが、先生とはよくあった。私は疲れていて食欲もあまりなかったが、その日のレッスンは六時までみていただいた。

 試験曲を全曲聴いていただき、モーツァルトも、スクリャービンくらい歌って弾きなさい。ブラームスは、もっとカルム(静か)に。プーランクはまあよし、アンポゼはとても楽しい曲だし、難しい曲ではないから大丈夫だ。と言っていただいた。

 それから私たちは来年の話だの、何だのとおしゃべりをし、先生の御宅を後にする。

 パリでは後輩のエミコが待っていてくれた。その日の夜はマレ地区へ行き、食事どころを探したが、マレというところはゲイの集まる場所で、あちこちに男たちのツーショットが見られ、なかなか驚きの世界であった。私の和声のメルクス先生も、こんなところで彼氏とデートしてるのかな、と思いながら。

 彼女とは明け方までおしゃべりをし、眠い目をこすりながら次の日の朝を迎えた。
エミコの部屋はパリのアパルトマンの最上階なので、暑くて目が覚めた。窓を開けて、風の入る部屋は久しぶりである。私は何故か、東北の彼と過ごした日本の夏を思い出していた。懐かしいなあ、あの夏の日。彼は今頃、何をしているのだろうか。

 六月のヨーロッパは、ジューンブライドと言うだけに、天気の良い爽やかな日が多い。その年の、最初の夏が訪れる月なのである。そしてまた、寒い日が続き、夏は断続的にやって来た。

 私はまた、ベルギーにしては珍しく暑いブリュッセルの街に戻り、問題の和声の中級の結果を知ることになる。

 結果は当然、不合格。学校でバッタリ会った仲良しの男の子が、カオルちゃん、残念だったなあ。と慰めてくれた。彼のスペイン人の友人も落ちてしまったらしい。しかもその子は期限切れで、退学がかかっているようであった。厳しいなあ。

 自分では予想できていた結果ではあったが、案の定、父にファックスを入れると、向こうでは大変動揺してしまっていて、何回も電話をかけてきてくれた。父は本当にがっかりしてしまったようであった。申し訳ない気持ちになった。日本の師匠たちにも電話を入れる。これで、二年目にしての卒業資格は取れないことが確定したのである。自分の実力不足を実感すると共に、もうじきやってくる最後の実技試験に全力を尽くそう。と心に決める私がいた。それからのことは、それから考えればいい。本当に、精神的にキツイ時期であった。あと一踏ん張り。だけど、ここを乗り越えるのが、すごく苦しい。

 東北の彼にも留守電を入れておいたのだが、彼からは何も連絡はない。

 私は毎晩、彼の夢を見ていた。

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