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2017年5月17日 (水)

五十 二年目のテクニック試験

 いざ、二年目のテクニック試験の本番、三月二十五日。

 緊張のため、ろくに食べられず、昼過ぎにはコンセルヴァトワールに着く。私は未だに、本番前はご飯が喉を通らない。これは、体力勝負としては非常に不利であるので、何とか直したいと思っているのだが、どうしても無理なので、今はエネルギー補給のゼリーを飲んだり、かろうじてバナナを食べたりして補っている。こないだの生徒たちの発表会主催の日なんて、十秒チャージを七本くらい飲んでいた。まあいいとして。

 当日、私は十四時からの四番目であった。例によって、隣の部屋で練習してから、師匠と一緒に試験会場(プティ・サル)に入る。緊張はしていたが、地に足が付いていないという感じではなかった。本番前に、これでもかというくらい、楽譜の見直しをやっておくと、落ち着いて鍵盤が見られることがわかっていたので、吐きそうになりながら見ておく。(これは非常に緊張するし、辛い作業なのである。)

 部屋に入ると審査員がずらり。学長先生がニッコリと微笑んでくれたのが嬉しかった。

 試験曲は、バロック二曲のうちからソレール、三曲選んでおいたバッハ平均律の中から嬰ヘ長調(めっちゃ難しいやつ)、ショパンエチュードのエオリアンハープ、ラフマニノフの音の絵から、六度のエチュードが当たった。

 バッハは途中で迷宮入りして落ちてしまう(つまり、間違えて止まってしまう。どこを弾いているのかわからなくなるのだ)代表的な曲であり、絶対に負けるもんかと自分の精神力と闘った。エオリアンハープは随分良かったと、後でアシスタントに褒められる。ラフマニノフは多分、ショワ(自分で選べる曲)であったと思うし、気合いを入れて弾けたはずである。私はどのエチュードにおいても、三度は苦手だが六度は意外と得意だ。
(何度、と言うのは、鍵盤がいくつ離れているかと言うことである。その度数の和音を、始めから終わりまでずっと引き続けるような旋律を持つ練習曲。これが難しい。)

「このくらい弾けていたら、六月もちゃんと弾いたらプリは取れるわよ。」

 とアシスタントに言われ、私は思わず、終わってからコルニル先生の前で、安堵のために泣く。

 緊張が解けると、急にお腹と背中が痛み出し、鎮痛剤を飲み、終わった学生たちとカフェでボルシチを食べてお祝いをした。皆、晴れ晴れとした顔をしていたから、きっとうまく弾けたに違いない。夜はよっちゃんがこれまたお祝いにと、美味しい日本料理店に連れていってくれた。

 ああ、無事に終わった!あとは運を天に任せるのみ。嬉しい。世界がこんなに明るかったなんて!

 次の日は疲れがドッと出て、それでもヨロヨロとピアノを教えに出かけ(向こうでは出張レッスンをやっていた)、東北の彼氏に留守電を入れておいた。

 そして三日後の、運命の点数発表の日を迎えるのである。

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