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2017年5月30日 (火)

七十 決定打

 私は、生涯で三回だけ、大恋愛をしたんじゃないかと思っている。二度目以外は二人とも、音楽家。

 一度目は二十歳の頃。この時もそれこそ、それまで付き合っていた彼氏たちを蹴散らしての大恋愛だった。本気で人を好きになるとはこういうことなんだ、と思った。しかし私たちは若く、また大事にされすぎて、私のあっけない浮気から破局。

 二度目はお察しの通り、この東北の彼。四年間にまたがる、大遠距離恋愛の相手である。彼とは別れた後もたびたび会っており、縁がある仲である。

 三度目は何を隠そう、今の夫だ。はっきり言って、大好きだった。(今もだけど)東北の彼と別れてからというもの、私の悪事はすさまじいものとなって行くのだが、そのもつれた人間関係を全て精算して、私は友人の言うところの、真人間に生まれ変わる。まあ、夫だっていろいろあったんだけど。それはいいとして、私がこの時、遊びに行ったのは、一度目の大好きだった彼のご実家である。

 私はまるで親戚の子のように大事にされていた。そして、わざわざ迎えに来て下さったお父様と、おしゃべりに花が咲いた。ビールを飲みながら、お母様も加わり、私の留学生活について、ふんふんと言いながら、感心したように聞き入って下さる。途中、東京にいる彼に電話を入れると、「な、なんでそこにいるんだヨ、お前は〜。」と言って呆れながらも爆笑された。私の母は、今どこにいるの?歯医者の予約はどうしたの?と、慌てていた。(すっかり忘れてた)ああ、歯医者、心残り。

 その日は一泊させてもらい、朝食をいただいた後、弟さんに車で駅まで送ってもらう。その時、彼に
「僕、カオルさんと兄貴は結婚するもんだと思ってました。」
 と残念そうに言われたのを覚えている。
 私はちょっと切なくなったが、結婚だけが全てじゃないやと思い直し、彼に礼を言って別れた。

 さて、いざ、再び出陣。彼は勤務先に居り、私を見てびっくりしていた。(注、デスクワークではない。店頭勤務である。私はそこまで図々しくはない。あしからず。)この記憶は今、私の頭の中には全くないが、当時の日記にはそう書かれている。そして私は合鍵を見せ、家で料理でも作って待ってるね。と言う。これは、彼を大変怒らせた。でも、もしも私にまだ気持ちがあったのなら、普通はそこまで怒らないと思う。(B型の基準としては。)その時の彼は顔色もサッと変わり、明らかに激怒していたから、もうその時点で私のことはそこまで好きじゃないんだな、と、私は直感的に察した。

 早めに引き上げてきた彼は、憮然とした顔で、こう言った。早くご飯、作ってよ。お腹すいてるんだから。私は猛烈に腹が立ったが、まあ怒らせてしまったんだから仕方ないと思って黙っていた。せっかく作ったご飯も、喉を通らない。沈黙が流れる。

 今こうして振り返ってみると、たぶん、たぶんですよ。彼は別に、そこまで私のことを嫌いになってたわけじゃあなかった。ただ、面倒臭くなっていたんだと思う。そして合鍵を勝手に作られたという、自分の気に触ることをされて、一時的に爆発しちゃったのだ。ごめん。で、普段から口数が少ないときてるから、それはそれは険悪なムードが漂う。私はつい、別れたいのかと訊く。彼はずるいので、ハッキリは答えない。でも、この時彼は酔った勢いで、決定的なことを言ってしまうのだ。これが、私たちの別れの決定打となった。

 それは、衝撃的なセリフだった。

「そうだね、別れた方が、いいかもしれないね。だってオレ、ホモだし。気付かなかった?」

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