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2017年5月13日 (土)

四十四 また日本に帰りたい

 そう、その秋、私はギックリ腰になった。

 確かよっちゃんと喧嘩をして、「ちょっと、聞いてるの!?」なんて言いながら、思いっきり彼を引っ張ったら、そうなった気がする。「バカだねぇ〜」と呆れられつつ、私は一週間、安静の身となる。ピアノを弾けないのは痛かった。膨大な譜読みがあるというのに、ここで弾けなかったら厳しい。病院へ行ってレントゲン撮ったほどだったから、けっこう重症であった。私はその他にも生理痛に悩まされていたから、下半身は常に最悪である。

 それでも友人たちと一緒によく飲んでは食べて、気晴らしに楽しく過ごしていた。ユキとはよく飲んだが、しづちゃんとはよく鶏鍋をやった。

 一緒にマヨルカ島に行った、仲良しのしづちゃんは、鳥が、特にインコが大好きである。彼女は一度ザグレブに留学し、そこからベルギーに移って来たのだが、物静かだけれど芯の強い美女であった。ベルギーはプレ(鶏肉)が大変美味しい。骨つき肉を贅沢にも鍋にドーンと入れ、出汁をとった鶏鍋は絶品であった。美味しいねえ、と私たちは頬張りながら、しづちゃんは「でも私、エビは食べられないの。」と言った。何故かと訊くと、ヨーロッパで巨大なオマールを見たら、飼っていたザリガニを思い出してしまったと言う。だけど鶏肉はいけるらしい。鳥を飼っていたのにね。そんなことを、物静かに語るしづちゃんはとても面白かった。

 ああ、話がそれちゃったけど、とにかく私はギックリ腰。焦る気持ちを抑えつつ、安静に過ごしながら、日本を想った。

 冬休みに、帰りたいな。

 そう思ったら一直線。どうせダメだろうと思いつつ、国際電話をかける。

 妹いわく、

「お姉ちゃん、どうせクリスマスを東北の彼氏と過ごしたいから帰りたいだけでしょ。」
(図星)
「あいつ、腰のせいにして帰って来るつもりだぞ、って、父、言ってたよ。」
(バレたか)
「いいって。帰って来て、いいってよ。」

 意外である。許可がおりたのだ。私はびっくりしたが、嬉しかった。暖かい日本での年越しができる。しかも今回は、相棒よっちゃんも遅れて帰国すると言っている。楽しい旅になりそうである。

 私はなんだかんだ言って、彼ともまた楽しく過ごしていたところだったので、とても楽しみであった。仕事をしている彼はハツラツとして爽やかでカッコよかったし、何しろB型とO型同士で、気も合っていた。恋人同士、と言うよりは、もっと身近な家族のような感じであった。でも価値観は少し違っていたから、お互いに頭では理解していたけど、イライラさせたことも多かったと思う。夫婦になるのって、いちいち話し合わなくても自然と同じ感覚でいられる方がいい。だけどそういうのって、何年か暮らした後にわかったりもするから、人間同士って本当に難しいもんである。

 十二月にはクリスマス市も開かれ、年末のブリュッセルの街は華やいでいた。
 だけど大晦日は、本当に寂しい。どこの店も閉まり、静まり返る年末。そして、何の飾り気もなしに始まる正月。誰もが日本のお正月が恋しくなる時期である。

 二年目の年末をギックリ腰で迎えた私は、ひょんなことから日本で過ごせることになり、正月を心待ちにしていたのであった。

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