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2017年6月 4日 (日)

七十八 バスの運ちゃん

 私はこの年、勉強に乗ってはいたが、十二月に入り、寒くなってくるとよく、体調を崩した。もともとひどかった生理痛が、輪をかけてひどくなってきていたのである。今考えると、この頃から筋腫も育ち始め、内膜症になってきていたのだと思う。でも、ヨーロッパにいる私は、気付かない。三十を過ぎて結婚した後、それはようやく見つかるのである。だからその時は、なんとか薬を飲んでしのいでいた。

 十二月のある日私は、バスの中で倒れた。アシスタントのレッスンのため、コンセルヴァトワールに向かう途中、貧血を起こしたのだ。そういえば、こっちに来てからまだ外で倒れてないなァ。なんて思ってたら、どんどん気分が悪くなり、焦った。仕方なく座席でうずくまり、横に座っていたマダムがびっくりして声をかけてくれた。

 大丈夫です…いつものことだし…貧血だから。なんて、フランス語で応えている余裕はなかったので、「大丈夫大丈夫。」とだけ言っていると、なんとマダムは運転手のところへ、気分の悪いマドモワゼルがいるわ、と伝えに言ってくれた。

 すると親切な運転手のおっちゃんは、バスを停車させ、病院へ行くか?と声をかけに来てくれたのである。どうですか、このサンパ(フレンドリー)っぷり!日本じゃあ、考えられない。だいたいにおいて、隣の人だって、知らんぷりである。私は朦朧とした頭で、(さすがはヨーロッパだよ…)などと思いながら、「だいぶ気分が良くなってきたから大丈夫。ありがとう。」と答え、本当にマシになってきたので、目的地で下車することができた。

 まだふらつく足元でコンセルヴァトワールへと向かったが、もしあの時、私が病院へ行ってくれと頼んだら、あの運転手は本当に行ってくれたんだろうか。乗客たちも、私が少し良くなったとわかったら、皆、よかったねと言ってくれてたっけ。ああ、あったかいなあ、ブリュッセル。こりゃ、今日のネタだな。などとぼんやり考えていた。

 体調を崩すと決まって精神状態もブルーになるのであるが、そんな時、私は日本の友人たちによく手紙を書いた。幼馴染みのミーちゃん、大好きなアキカさん、そして、東北の彼にも、こちらの生活の報告をしていた。別れていたのに、意外としょっちゅう、コンタクトをとっている。日記を読み返して気付くのだけれど、私たちはけっこう、仲良しだったのだ。

 私はこの時期、男性関係は大変静かなものだったが、友人、ユキはかなり荒れていた時期であった。しょっちゅう私に会いに来ては、新しい彼氏の愚痴を言っており、
「なんか私、まるで新婚の愚痴言いに来てる主婦みたいじゃない?!」
 とか言って、大笑いした。

 私は彼女の彼氏を品定めしては、「あ、今回は続かないな」などと密かに思ったりしていて、案の定、その三日後にサッパリ別れたりしていた。全く、人の恋愛はよくわかるのに、自分の恋には盲目である。

 そしてベルギーの街はクリスマスを迎え、私の、一時期鎮火した男関係のように、静かな時を迎えるのである。

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