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2017年6月 2日 (金)

七十三【三年目】 ディプロムスーペリウールに進学する

 空港で出迎えてくれたよっちゃんは、なんといきなり、別れ話をもちかけてきた。

 私はびっくりしたと同時に、なんでいきなりこのタイミングで?しかも、会ったとたん、空港で言うかな〜と訝ったが、まあ、私の夏休みの一部始終を想像していただろうし、多分すごく嫌な思いをさせてしまったんだろうな、とちょっと反省して、いいよ、別れたいのなら、そうしよう。と応えた。

 その時の私には、怖いものなど何もなかった。すっかり愛に冷めていたし、何を言われてもへっちゃらだった。でも彼は、そんなことを言っていたくせに、結局その日のうちに、やっぱり別れるのをやめたらしい。さすがはよっちゃんだよ、でも自分の言ったことには責任を持て。と密かに思ったが、言うのはやめておいた。そして、猫のプーすけに会いに行ったり、ユキやしづちゃんたちにお土産を渡しに行ったりした。また、ブリュッセルでの日常が始まろうとしていた。一つだけ違ったのは、東北の彼とは別れた、という事実であった。

 今年から留学してきた、新入りの後輩、トッコちゃんとも初めてご対面した。なかなか面白そうな子であり、これから一年、楽しくなりそうだな、と思った。

 大使館にも挨拶に行き、これからまた一年お世話になることと、相談に乗ってもらっていたお礼報告として、彼と別れたことも告げた。
「いろいろ、あったんだね。」
 と、優しく肩を叩いてもらったのが、嬉しかった。

 そして新しい家に引っ越しを終えたユキのところへお祝いに行き、彼のホモ説で大いに盛り上がり、笑い飛ばしてもらって帰ってきたりした。ホントなのかな?と訊いてみたら、う〜ん、そんなの、わかんないわヨ〜。貴女と別れたかっただけかもしれないし、酔っ払って変なこと言っちゃったのかもしれないし、でもまあ、案外、ゲイも似合ってるけどネ。と、タバコを燻らせながら彼女は笑った。

 さてそれからは、日本であれだけ遊び放題の私だったが、さすがは暗いブリュッセル。地味に手紙を書いたり、日記を書いたり。ピアノを練習する以外に、何もやることがない。私は今年から、強く生きるんだ。そうしないと、自分がダメになりそうだから。そう日記には書いてある。早速国際コンクールにファックスを打ったり、ストイックな勉強に打ち込み始めた。結果的に、彼と別れたことは、音楽を続ける私にとって正解だったわけである。人生とはうまくできているもんだ。

 そして九月半ば、私たちは、ディプロムスーペリウールという、いわば大学院のような上のクラスに入るため、簡単な入試を受けることになる。

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