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2017年6月 4日 (日)

七十七 芸術の秋

 十一月に入ると、ブリュッセルの街にはクリスマスの装飾が施され、一気に華やいだ雰囲気になった。十一月下旬には、よっちゃんと共に二度目のローテンブルグに訪れ、以前は買えなかった、クリスマスの小物を買ったりした。心は弾み、ウキウキした。

 演奏会にも行った。ブリュッセルの劇場は、パレ・デ・ボザールやモネ劇場などがあったが、コンセルヴァトワールのホールでも演奏会は行われていた。この時は確か、ボザールだったと思う。学生チケットは安く手に入るが、その代わり、最上階の一番後列で、太い柱の陰だったりする。だけど我らコンセルヴァトワールの学生たちは、その辺りを陣取り、観にくいので正座なんてしちゃったりしながら、大物たちの演奏を大いに楽しんだ。

 二十七日、ポリーニがやって来た。夜八時からの演奏会である。私は彼の演奏はあまり好きな方ではなかったが、一応、大スターだし、行ってみることにした。しかしこの日の彼の演奏は素晴らしかった。
 ショパンのバラード一番、四番、ノクターン、子守歌、ドビュッシーのプレリュードなどのプログラム。アンコールにはショパンエチュードから、10-4、25-1、黒鍵などなど。これでもかと言うくらいにアンコールは続き、観客たちは沸いた。私たち学生も、知り合いという知り合いが顔を出し、大興奮して拍手喝采していたら、前列にいたマダムたちが「あら、コンセルヴァトワールの学生たちも嬉しそうね!」と言う顔で振り返ってウインクしていた。それからしばらくの間、レッスンにおいても、師匠、学生ともにいい影響を及ぼし、かなり皆、やる気を出していたと思う。

 それから同じ十一月に、我らが師匠、コルニル先生の演奏会もあった。ちょっと郊外の、素敵な教会でのコンサートである。後輩のトッコちゃんと、よっちゃんとで聴きに行ったが(ユキは、何かの理由で来られなかったように思う。)お得意のフランク、トッカータが素晴らしく上手で、割れんばかりの拍手となった。あんなにバリッと弾けるなんて、私も見習いたい。先生のCDもたくさん出ていたのだが、何故買って来なかったのかと、今でも悔やまれてならない。

 私は、三年目のヨーロッパの文化にふれながら、自然と音楽を吸収して行った。自分の勉強にも、少しずついい影響が出てきていた。和声の授業も、メルクス先生に何度もパーフェクトをもらい、喜んで帰って来ては宿題に励んでいた。一番乗っていた時期であったと思う。

 そして十二月に入り、 三年目の冬は、初めてブリュッセルで静かに、平穏に過ごすことになるのである。

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