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2017年6月20日 (火)

九十九 葬儀のあと

 おばあちゃんの葬儀を終え、自宅に戻って来た私は、よく母とお喋りをした。

 母は祖母の介護中はずっと悲しみの中にいたが、私が帰って来ると毎度のこと賑やかになるので、ずいぶん気が紛れているように見えた。祖母が亡くなってからは、妹も交えて一緒におばあちゃんの書いた日記を読んだりして、よく笑うようになった。祖母は妹、ユリコのことを「心の優しい、穏やかな子」と書いていたが、私のことはそうは書いておらず、日々相当心配をしているようであった。納得いかん。でもあれだけ心配をかけていたから、ああやって夢に出て来てくれたのかもしれない。私の日記もいつか人に読まれるのだろうか。どうか私を想って泣いてくれ夫よ。そして笑ってくれ、娘よ。まあ、もうすでにこうしてほぼ、公開しちゃってるんだけど。

 三年目の夏の終わり、急遽一時帰国をした私は、心は常にベルギーにあった。日本にうまく馴染めなくなっている自分がいた。だから、少しの間だったが、よっちゃんが帰って来てくれることは嬉しかった。昨年の夏のように恋に荒れ狂い、男どもと遊ぶことなどはなかった。身内を亡くした私に向かって心ないセリフを吐き、密かに縁を切った男友達もいた。ユキはそんなマジメな私を見て、多少残念そうだったけれど、私もたまにはまともになるのである。

 幼い頃から一緒に暮らしていたおばあちゃんの死は、その最期、離れていた私に突き刺さり、家族と離れていることをよりいっそう、考えさせられるようになった。けれどだからと言って、私は勉強をやめようというつもりはなかった。もう少し、もう少し。私はまだ、全然上手くなっていない。まだまだ吸収しなければならないことが、山ほどある。師匠、Mr.カワソメには、お前、コンクール残念だったなあ。と言っていただき、大学でも後輩たちはじめ、奈良先生とお会いして帰ってきたりした。考えてみれば、この時もどこかで夫とすれ違っているのかもしれないと思うと、面白い。

 父はこの時とばかりに、私に見合いの話を進めてきた。とっておきを紹介するから、と言ってうるさい。もううるさいので、適当に返事をしておく。父はそれは嬉しそうに急ピッチで仕事を進め始めた。私はおかまいなしに、両親によっちゃんを紹介する。ムッとする父。そんな、今から思えば漫才のようなことを、私たち親子は繰り広げていた。本当に、娘など、自分の思い通りにはいかないもんである。アーメン。

 留学帰りの後輩の、演奏会を聴きに行ったりもした。確か二年くらいで帰国したヴァイオリニストで、私は彼女の演奏を聴きながら、自分の耳が以前よりずっと肥えていることに気付く。やっぱり、勉強は二年じゃ短い。私はもう少し、勉強してからでないと帰れない。そう感じた。そして帰ったら、頑張ってリサイタルを開こう。私は結婚のことなど頭になく、(いや、そりゃあ、話のネタでは始終盛り上がってはいたが)この先のヨーロッパでの暮らしと、帰国後のぼんやりとした目標について考えていた。

 そんな私に、真剣にアプローチしてくれた彼がいた。

 昨年の夏、実家にフラッと遊びに行った、仙台の彼氏である。

 彼は相当、女性にモテていたに違いないが、帰国していた私に向かって、帰って来たら、一緒に暮らさないか?と言った。散々考えていたけど、ようやく決めた、と言う表情をしていたから、真剣だったと思う。私は迷った。彼とは二十歳の頃、大恋愛をして、別れてからも何度かヨリを戻そうとしたが、お互いタイミングが合わずに、すれ違いばかりだった。そして、今回もそうであった。せっかくの申し出に、その時の私はイエスと言うことができなかった。よっちゃんがいたし、この彼にだけは、私は二股などかけることはできなかった。別に、東北の彼のこともよっちゃんのことも、遊びだったと言う訳ではない。私はいつだって、恋に真剣である。二股だろうが、三股だろうが、巡り合ってしまった恋には真剣勝負である。誰にも理解できないかもしれないけど、適当に付き合うつもりは全くない。全集中型である。いいよいいよ、誰にも理解してもらえなくったって。

 とにかく、私は仙台の彼に、今の状況と自分の気持ちを話して納得してもらった。私が帰国リサイタルをした時には心から応援してもらって、しばらくの間、よく会っていたが、お互いに結婚してからはほとんど顔を合わせていない。今では音楽業界で大活躍していることと思う。このブログも読んで、笑ってくれているかもしれないけど。

 そんな切ない想いも抱えながらいたある日、よっちゃんはベルギーから帰国する。

 私は喜んで、横浜まで迎えに行った。そしてしばし、彼との一時帰国の生活が始まるのである。

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