« 七十八 バスの運ちゃん | トップページ | 八十 チューリヒへ »

2017年6月 5日 (月)

七十九 静かなクリスマス

 クリスマスの少し前、私とユキは、アシスタントの立会いのもと、コンクール用の音源を作るために、楽器店のホールを借りて収録を行った。ちゃんとしたテープを作らなければいけなかったので、録音技師に来てもらい、バランス調整した後に製作してもらうのである。今と違って手頃な機材もなく、私たちはお金を払って仕事をしてもらった。録音というのは、ライヴと違って全然楽しくなくて、別の意味で身体が緊張してしまう。帰ってからもアドレナリンが出ていたのか、興奮していて、なかなか寝付けなかった。

 クリスマスイヴの日は、珍しく暖かい日であった。私は不覚にも昼過ぎに起き、(ブリュッセルでの生活は、完全に夜型だった。夜中まで好き放題に弾ける部屋であったし、私は毎晩、二時近くまで起きていたような気がする。今じゃとてもムリ。十時半就寝、六時半起床と、すこぶる健康的な生活である。)そして私は、街に出た。人々は皆、ウキウキしていた。今夜のメニューを考えながら、スーパーで買い出し。三千円前後で調達できた。食費は安く、日本ではこうはいかなかっただろう。

 そして、ずっと目につけていた帽子と、たまたま手頃なリュックを見つけ、よっちゃんにプレゼントする。喜んでくれると思ったら、案の定だった。彼の背負っていたリュックはもう古びていたのに、毎日同じものを使っていたからだ。この街では、おシャレなど皆、全然気にしていなかった。留学当時は、歩いていると「旅行者か?」とよく訊かれたのに、この頃にはすっかり現地化していて、たまに一時帰国すると妹に「お姉ちゃん、なんじゃその格好は!」と呆れられていたものである。

 さて、イヴのメニューに取り掛かるのは夕方から。ボン・ノエル!(メリークリスマス!)

 私は、トマトベースのソーセージ入りポトフに、じゃがいもスモーク、カリフラワーのサラダ、ミートローフ風牛肉巻き、デセール(デザート)には、パンナコッタミルクティー風味を作る。これらはパーフェクトに出来上がり、最高のノエルとなった。よっちゃんはイヴもしっかり働いて、夜になってから、ワインとシードルを手土産に持って来てくれた。

 日本のみんなはどうしているかな…。妹、ユリコはどう過ごしたんだろう。東北の彼は?みんな、メリークリスマス。楽しく過ごしていますように!と、思いながら。

 二十五日は、街中静まり返り、皆、家族団らんで過ごしていた。

 大家さん一家は次の日からヴァカンスに行くため、私は家の動物たちに餌やりを頼まれ、魚に餌をやったりしながら、センスのいい部屋の飾り付けなどに見とれたりしていた。

 ベルギーでの初めての年越しは、それはそれは静かに過ぎて行った。ひたすらピアノをさらい、大晦日には日本食屋さんで忘年会をした。

 そして元旦、私たちは静かなブリュッセルを後に、友人のいるスイスへの旅に出るのである。

« 七十八 バスの運ちゃん | トップページ | 八十 チューリヒへ »

ピアニストMama♪ 留学白書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/605244/65329732

この記事へのトラックバック一覧です: 七十九 静かなクリスマス:

« 七十八 バスの運ちゃん | トップページ | 八十 チューリヒへ »

フォト
無料ブログはココログ