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2017年6月15日 (木)

九十四 本番、一日早まる

 私は試験前日に、本番が一日早まって明日になったことを知らされた。驚きであった。でも日記には、不平不満は一切書いていない。もうヨーロッパってそういうところだし、ハイそうですか。と受け入れるしかないので、慣れっこになっていたと思う。

 前日に私はまた、東北の彼氏に電話をしている。ここまで来ると、もう別れたんだか何なんだか、結局のところ、電話の回数が減ったくらいで、以前と何が変わったのだかわからなくて笑ってしまうが、まあ私たちの中では気持ち的にすっかり整理はついていたので良かったのだろう。

 明日、試験なんだよ。と色々話をしたが、彼はすっかり、私と付き合う前の彼に戻っており、「ヨーロッパいいなあ、もう一度行きたいなあ。知り合いが居てくれるといいよな〜。」とか言っていた。

 午後は銀行へ行ってみると、残金がほとんどゼロになっていてガッカリしたが、とにかくも、来年度のアンスクリプションは提出しておいた。授業料なんて年間登録費一万五千円ほどだったし、もしも途中で帰国することになったとしても、まあ、損はない。

 そしてあくる日の七月一日、私は興奮してよく眠れなかったが、いざ、コンセルヴァトワールへと向かった。

 私の順番は、午後の最後、アルファベットMの、ミタ君の次であった。昼過ぎにアシスタントから電話があり、事前に、モーツァルトのコンチェルト二、三楽章と、ショパンエチュードに決まったと知らされる。きたか、あのエチュードが。コルニル先生には、バラードが当たるかもしれないから練習しておけ、と言われていたが、現在の夫いわく、あのエチュードを持ってきたら必ず当てられるだろうよ、とのことである。それだけ、難曲ではあった。審査員たちは、待ち構えたかのように聴くだろう。

 私はまず、腹ごしらえするために、フラフラとカフェに寄り、むりやりオニオングラタンスープを飲んだ。店のムッシューが私の顔色を見て、どうしたのかと尋ねてくる。私は、これから試験で、ピアノを弾くんだ!と応えると、おお、それならばもし、bien passee(うまく行った)なら、また来なさい!と言われる。学校へ着くと、友人たちに会い、少し落ち着いた。

 そして、緊張の本番はいざ、始まるのである。舞台はいつだって、死刑を宣告されて断頭台の上にあがるような心境であった。私だけではないはず。舞台を体験した者ならば、大きく首を縦に振るに違いない。

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