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2017年6月16日 (金)

九十五 三年目の本番

 会場に着くと、ちょうどキボウちゃんが弾くところであった。少し聴いていたが、上手な彼女でもやっぱりけっこう緊張するんだなあ!と思う。続いてMr.ミタの演奏を舞台袖で聴き、緊張で心臓が速まりつつも、落ち着いてから試験に臨んだ。

 モーツァルトのコンチェルトは、私の出番の少し前のベルギー人の男の子が、同じ一楽章を弾かされていた。私は、彼に続いて二、三楽章を弾く、という按配だった。緩徐楽章である二楽章は、ピアノのソロから入り、後からオケがついてくる。よって、自分のペースで、テンポ設定ができるのが強みだった。少々ゆっくり過ぎたかもしれないが、三楽章はバッチリ、音楽的に弾けたと思う。

 ショパンのエチュードは、一回壊れかかったが、なんとか立ち直り、最後まで無事に弾ききった。難しいエチュードだった。

 演奏を終えるとジュリーたち(審査員)は控え室に戻りがてら、私の横を通り過ぎ、「良かったよ。」と言う顔をして目配せしてくれた。

 聴いていたしづちゃんたちには、モーツァルト、とても綺麗だった。ミタ君とはまた違って、小さい音なのに不思議と引けを取っていなかったし、よく飛んで来る音だった。と褒めてもらった。ミタ氏は確かベートーヴェンの皇帝を弾いていたと思うが、彼の演奏は素晴らしく、そのテクニックは抜きん出ていたので、私は密かに北斗の拳と呼んでいたのだ。

 家に帰ってからテープを聴いてみたが、壊れたエチュードは心配していたほどではなく、全体的に音楽的にまとまっていたのでホッとした。確か聴きに来てくれたよっちゃんも、満足だったよ!と言ってくれて、私はとにかくも、無事に終わった本番に安堵したのである。

 次の日はユキの本番であった。彼女はとても落ち着いて、音楽的に弾いていた。ちょうどその時、日本から聴きに来ていたユキのお母さんが、彼女の演奏を聴いて感動されていた。昼はみんなでコリアンで食事をする。ユキのお母さんは、彼女をパワーアップさせたような存在感のある方で、彼女のヨーロッパでの成長に大満足して帰って行かれた。そう、私たちは本当に、三年目にして大きく成長し始めていたのである。

 私はまだテンションが上がっているため、次の日もなかなか眠れないので、キボウちゃんや、しづちゃんたちと長電話をする。

 キボウちゃんは、私の次の年から入って来た優秀な学生だったが、カオルちゃん、今回は相当気合入れてたね。と言い、しづちゃんには、モーツァルトね、本当に良くなったよ。カオルちゃん、変わったよ。私、感動したもん。何て言ったらいいかうまく言葉にならないけど、音がすごく自然で、無理なく伸びてたよ。とまた、褒めてもらった。皆、私なんかよりずっと上手いのに、心から励ましてくれて感激したのを覚えている。

 そして私は無事、ディプロムスーペリウールの一年目の試験にパスした。プルミエプリの時とは違い、点数はつかずに、審査員たちのoui,non(イエス,ノー)の数で合否が決まった。私の前に弾いたモーツァルトのコンチェルトの男の子は落ちていた。厳しい。

 私は大喜びで師匠に電話を入れる。Mr.カワソメは自分のことのように喜んでくれて、現代曲しか弾けなかったお前が、モーツァルトを弾くとはなあ。お前、帰ってきたら絶対リサイタルやれよ!と、またまた念を押されたのであった。

 辛く長かった一年間の練習からようやく解放され、私は次の日、猛烈な食あたりと共に、夏休みを迎えるのである。

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