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2017年6月 3日 (土)

七十六 三年目の選曲

 ディプロムスーペリウールに進むと、プルミエプリのように試験が二回に分けて行われることはなく、六月の本番一発勝負であった。ではその分、楽になったかと言うと、とんでもない。何てったって、コンチェルトが入ってくるし、エチュードもバッチリ弾かされる。おまけに今年は、コンクールの課題曲も同時に揃えなければならなかったので、大変だった。

 まず、コンチェルトには、モーツァルトのK488を選んだ。二十三番の、イ長調である。大好きな曲。頑張るぞ。それからショパンのバラード三番、バルトークの小品op.14。グラナドスのゴイエスカスより、マハと夜鳴きうぐいす。エチュードは、リストのため息、ショパンのop.10-10、変イ長調(六度のエチュード)である。

 普通はだいたい、日本でやったことのある曲なんかも入れたりするのだが、チャレンジャーな私は毎年、全曲新曲を選んだ。これは無茶苦茶、大変である。レパートリーを増やしたくて頑張ったが、そこまで優秀でもないくせに、本当によくやっていたと思う。おかげで自信がついた。これだけ厳しい状況で頑張ったのだから、日本に帰ってからの舞台では、以前に比べてかなり余裕が生まれたと思う。人間、苦労はしてみるもんである。

 私は張り切って練習していたが、コルニル先生のところへ初、コンチェルトレッスンで持って行くと、初めは「ビアン(良いね)」と言って聴いて下さっていたが、そのうち後半になると難しい顔になってきて、最後、カデンツァの部分になると、鼻で笑われた。くそっ。私にとっては、初めてのコンチェルト。慣れないことも多く、難しかった。

 十二月に入ると、初めてアシスタントと一緒に二台ピアノで合わせ始める。

(コンチェルトの試験では、二台目のピアノを使ってオーケストラパートを弾いてもらう。だから先生方やアシスタントたちは皆、分担して、生徒の人数と曲数分だけオケパートを弾かなければいけない。これは恐ろしく大変な作業だったと思う。)

 二台で合わせるともう、とたんに自分の音が聞こえなくなり、うまく弾けなくなってしまった。そうか、コンチェルトって、こういうものか。そして私は帰国後、夫と共にオケと初めての合わせをやることになるが、オケなんてもう更に、二台ピアノとはワケが違い、ここまで精神力を必要とされるのだ、と身にしみてわかることになるわけである。

 私は勉強に夢中になっていた。そして気付いたら、もっとブリュッセルに残りたい、残って勉強を続けたいと思い始めている自分がいた。苦しい遠距離の恋が終わり、私の気持ちはヨーロッパに自然と傾くことができたのである。

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