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2017年7月 4日 (火)

百十三 ユリコとぶんちゃん

 ブリュッセルに戻ってきてから、私はモーレツにピアノをさらった。

 久々に静かな環境で、暗譜に燃える。早く仕上げなくてはいけない。それなのに、友人たちは代わる代わる、電話をしてきてくれた。ユキとは直接会って、日本での一部始終を話したが、案の定の大爆笑で、散々からかわれた。私は悪友たちに囲まれて、幸せである。

 そして私は髪を切った。バッサリのボブ。この時はもう、日本人がやっている美容院を見つけていて、私はもっぱら、そこでしか切ってもらわなかった。よっちゃんもオリビエたちも、今までで一番似合っていると言って褒めてくれた。今はずっとショートカットにしているが、当時はロングとショートを繰り返していたように思う。何しろ、お金がなかったので、ショートを保てなかった。というのが理由だろうけれど。

 お見合いの君とは、電話の日を決めて、かけてもらっていたらしい。結構頻繁に電話をもらっているので、電話代はきっとすごいことになっていたに違いない。一度私が心配して、何らかの提案をしているが、君は一切、心配しなくていい。その気持ちだけを受け取っておくよ。みたいなことを言われ、貧乏学生としては、社会人の心意気に感動してしまっている。一週間しか会わなかった代わりに私たちは、電話で本当によく喋った。でも、私が試験でイライラしてくると、何も話題がない相手にイラついて八つ当たりしているから、ホントに勝手な女である。

 さて、三月半ばになると、妹ユリコとその彼氏(現在の夫)、ぶんちゃんがやって来た。

 彼らは一浪し、今年の大学受験を終えて、初めて二人で姉のところに訪れたのである。どんなに接待に疲れるだろうな…と覚悟していたけれど、実際はそんなこともなかった。海外に慣れない両親と違って、若い二人は飄々としていたし、また幼馴染みのような日本っ子でもなかったため、とても楽だったので驚いた。思うに、この辺りから、二人の海外放浪癖は素質十分だったのかもしれない。彼らはこの後、学生時代に思いっきり、お互いに別々の一人旅で、バックパッカーとして世界中を歩き回ることになる。

 途中、ぶんちゃんの大学合格の知らせが入った。

 お母様より国際電話をいただき、獣医になるための、北海道の大学に受かったと報告があったのである。

 ユリコは残念ながら、二浪が決定した。呆然とする彼女。可哀想に、まだ十九才で、神奈川と北海道とで遠距離恋愛をすることになろうとは、すでに遠距離で破局している姉としては、同情した。

 しかし、最初こそガッカリしていた妹たちであったが、結局、結婚後においても遠距離別居婚をずっと続けていたわけであるから、人生とは面白い。もうすっかり離れていることに慣れてしまったのか、それでも二人は超がつくほどの仲良しを保っている。結婚なんて、決まった形などない。今となっては、そう思う。いや、当時も思ってたかもしれないけど。

 二人はブリュッセルに十日ほど居てパリに移り、友人のエミコに少々お世話になって、無事日本に戻った。楽しいひと時であった。ピアノはその間、ほとんど弾けなかったけれど。

 そして、あっという間に三月も終わり。まずい、四月がやって来る。

 ここから私は、怒涛のレッスンに揉まれる日々を送ることになる。

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