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2017年7月 5日 (水)

百十四 ディプロム取得

 妹たちが帰ってすぐの、三月三十一日。

 ちょっとした予感がして、コンセルヴァトワールのセクレタリーに寄ってみると、その日、プルミエプリのディプロムが出来上がっていた。やっと手にした卒業証書である。嬉しい!日本でこれだけ嬉しかった卒業証書があろうか。ヨーロッパサイズの変わった大きさで、ちょっと横長の、大きめの紙で、学長先生はじめ、先生方のサイン入り。私もサインさせられた。これは、汗と涙の結晶である。ずっと大切にしようと思った。

 今でもこれはピアノの部屋に飾ってあり、生徒たちにたまに「これなに〜」と訊かれるが、私が外国へ行っていたことを知らないチビちゃんもいるので、驚くようである。子どもたちは本当に可愛い。

 それからは、七月あたまの試験に向けて、切磋琢磨の日々だった。

 コンチェルトの合わせが始まり、プーランクも意外と難しいので汗だくになっている。

 それから私はレッスンの日、うっかり楽譜を忘れてユーターンし、もう間に合わないのでタクシーでコンセルヴァトワールまで行ってもらったことがある。運転手の兄ちゃんに訳を話すと、もうノリノリで、トラムも信号も無視して車をぶっ飛ばしてくれた。おかげで間に合ったが、ベルギー人の運転はただでさえ荒いので、かなり青ざめながら乗っていたと思う。

 バーバーのソナタは全体的にいつも褒められており、エチュードは苦労している。日、一日と追い詰められ、早く日本に帰りたいと現実逃避が始まる。

 けれどこの最後の年は、やはりずいぶん曲を仕上げるスピードも、完成度も高くなってきていた。アンリオ先生にも初めて褒められる。バッハのパルティータを弾き終わった時、先生は一言、

「カオル、これはマリアージュ(結婚式)のダンス音楽だ。タリス(ブリュッセルとパリを繋ぐ新幹線)のように、ぶっ飛ぶな。もっと、まわりの風景を見ながら呼吸してみろ。」

 と言われ、ハッとする。

 なんだかわかったような気がして弾き直してみたら、

「beaucoup mieux !(ずいぶん良い)やればできるじゃないか。わかったか!」

 と言われたのである。
 自分の音も、澄んでいたのがわかった。

 聴いていたシホちゃんに、
「いいな、カオルちゃんは、音が綺麗でいいなあ。」
 と言われたのも、嬉しかった。

 私には、何かひとつ、小さな光る星があるんじゃないか、という希望が湧いた出来事であった。

 それに加え、私は師匠のMr.カワソメから、母校のイタリア研修所でのリサイタルについての提案も受けて、はしゃいでいた。発表の場ができるのは、本当に嬉しい。頑張って仕上げよう、という気が湧いてくる。

 四月に入るとエリザベートコンクールも始まり、街は四年に一度のオリンピックのような活気と興奮に包まれていた。日本から、友人のしづちゃんもベルギーに再来して、私たちは久々の再会に喜ぶ。

 そして勇敢なるエリザベート出場者たちの応援に、私たちは熱狂するのである。

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