« 百二十二 落選 | トップページ | 百二十四 アンリオ先生の贈る言葉 »

2017年7月14日 (金)

百二十三 彼からの電話、そしてオリビエたち

 ブリュッセルに戻って来た次の日の朝は、実家にファックスを入れ、みんなに残念だったなあと言ってもらえる。でも私は、やることが多すぎて悲しんでいるヒマもなかった。

 バタバタとやるべきことを片付けていると、電話が鳴った。驚いたことに、東北の彼が、一度よっちゃんが出たのにもかかわらず、もう一度私に電話をくれたのである。

 私たちは、一時間ほど話をした。こんなにゆっくり話すのは久しぶりだった。はじめはよっちゃんがそばにいた、ということもあり、お互いに多少ギクシャクしたが、そのうちに打ち解けて、色々なことを喋った。これは、本当に嬉しかった。彼の方も、「カオルとこうしてまた、こんな風に話すことができて幸せだと思う。」と言っていた。今までのことが全て、水に流れて行くような気がした。

 多分、私の気持ちは帰国に向かっていて、目先のコンクールも終え、やるべきことをやった後だったから、自分の気持ちもスッキリと整頓されていて、彼とも素直な気持ちで向かい合えたのかもしれない。恋愛は幾度となく、してきたけれど、彼がまさに付き合っている最中に私に向かって言った、「ボクはカオルにとって、別れてもずっと心に残るような存在でいられたら幸せだと思う。」というセリフが、結局その通りとなってしまった。彼ほど、いつも何かしら気にかかり、そういえば今ヤツはどうしているのだ、と思わせられる相手はいないかもしれない。まんまと思惑通りとなったのが、多少、負けた感があって悔しいが、まあいい。それだけ魅力的な人物と出会えた私は、幸せである。

 電話を切ってからも、よっちゃんは怒っていなかった。そして、私は二階にいるオリビエたちと、今度開くパーティーの打ち合わせをした。九月二十五日にしようということになる。

 それからは、生徒たちの引き継ぎ、いろいろな手続きと解約、やるべきことは山のように積み重なっていて、それらを一つずつ順番に片付けていった。四年も暮らすと、意外と最後は大変である。住んでいた半地下の部屋には、新しい音楽家が何人も見に来たが、結局、誰も入らないまま、私は帰国することになった。代々、演奏家たちが住んでいた一室だったけれど、私の四年間が一番長く、そして一番最後となり、一番仲良しになれたとオリビエは言っている。何年か後に、久しぶりに訪れた時は、シメヌ(エヴァの異父姉)が住んでいた。そして現在はきっともう、あのアパートには誰か全く別の家族が住んでいるのだろう。オリビエとベンチュラは離婚をしたはずだから。でも、きっとまだ仲良しのはずだ。そろそろもう一度、ヨーロッパに遊びに行ってみたい。今度は娘を連れて。

 約束の日となり、私たちは、オリビエ一家と最後のパーティーをした。私とよっちゃんがおもてなしをする、日本食パーティーである。半地下だと狭いので、上のリビングで、巻き寿司やら、いなり、焼き鳥、お好み焼き、お味噌汁、抹茶アイスと、純和食オンパレードであったが、皆、まあよく食べてくれた。特に焼き鳥とお好み焼きはヒットであった。

 エヴァとセルジュがいつか日本に来る約束や、メールアドレスをもらったり、私たちは最後の楽しい時を過ごした。そして同時に、何故ベルギーを離れることになるのか、寂しくてたまらなくなってしまった。この時はさすがのよっちゃんも寂しがっていたように思う。四年間の、彼に至っては五年間の、ブリュッセルでの生活は、長かった。

 そして私は、たくさんの友達や、先生方との、最後の挨拶をすることになるのである。

« 百二十二 落選 | トップページ | 百二十四 アンリオ先生の贈る言葉 »

留学生活」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/605244/65470979

この記事へのトラックバック一覧です: 百二十三 彼からの電話、そしてオリビエたち:

« 百二十二 落選 | トップページ | 百二十四 アンリオ先生の贈る言葉 »

フォト
無料ブログはココログ