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2017年7月12日 (水)

百二十一 コンクール本番

 コンクール、一次当日。ありえないことが起きた。

 七時半に部屋のドアをノックされる音で目が覚める。ビックリして飛び起きると、七時にかけたはずの目覚ましが止まっていた。明け方とても寒くて目が覚め、セーターを着たり服をかけたりでブルブル震え、具合が悪かったせいもあり、体調は最悪だった。

 五分で用意をして、ホテルのマダムの車に乗せて行ってもらったのだが、(よりによって、こんな遠いホテルに朝イチ出場者が四人も泊まったのだ。)私は練習室でずっと貧血気味で、力も出ず、もう本番にかけるしかないと思っていた。

 私の出番は十時。マツオカさんの、ショパンバルカローレの次だった。休憩を挟むはずだったのに、時間が押していたのでなくなり、すぐに舞台へと上がった。

 朝から調子がこんなだったので、あまり良い出来にはならないと思っていたのだが、信じられないことに私は三曲共、変なミスもなく、まともに弾くことができた。本番の、ど根性である。ここまで完璧に弾けたのは久しぶりだった。コンセルヴァトワールの試験では、曲が多くて集中力も分散していたのかもしれないな、と発見する。会場の雰囲気も、午前中ということもあって、穏やかな感じでとても弾きやすかった。アリッサが聴きに来てくれているのが見えた。嬉しかった。

 ただ、反省点としては、テクニックを見せる部分でいまいち精神力が弱くなってしまったこと、フォルテッシモの時に力が後ろに引けてしまったこと、などが挙げられる。緊張するとどうしてもそうなる。今度からはもっとゆっくり練習しておこう。もっともっと、細部に渡って気を使っておかなければならない。いろいろなことがまた、勉強になった本番であった。

 嬉しい発見だったのは、「本番はみんな同じ気持ちなんだ。」ということである。

 いくらバリバリに弾ける人だって、ステージに上がる前は緊張するのである。皆、真剣勝負で、「本番、どうなってしまうんだろう」という不安は一緒なのだ。あんなに弾ける人が、舞台裏では真っ青な顔をしていたりする。私も昨夜は、「もう絶対ピアノなんて、コンクールなんて嫌だ」と思って気絶しそうだったけれど、弾き終わってみると、またやってみたい!と思っている自分がいる。

 とにかく、今回のコンクールは私にとってとてもいい経験になった。帰国前にトライしてみて、本当に良かった。いや、まだ一次が終わっただけなんだけど、その時の私は心からそう思った。その後、日本へ帰国した後も、何度かコンクールは受けているが、コンクールというのはハッキリ言って、「自分との戦い」のみである。受かれば嬉しいが、落ちても誰も文句を言わない。ところが演奏会というものはそうではない。お客さんを呼ぶ以上、楽しんでいただかなくてはいけない、プロ根性というものが必要とされる。舞台とは、いつどんなものでも手を抜いてはならない、良い意味での緊張感を必要とされる、難しいものなのだ。楽しいけど。

 終わった次の日、私たちは、審査員たちが入っていったピッツェリアの店を狙って、昼食をとった。そこはとっても美味しくてホッとした。何しろ我々は前日、安いピッツェリアで、まさかの冷凍パスタ機内食バージョンのようなものを食べさせられていたからである。美味しいお店でいただいたのは、サーモンの自家製タグリアテールだったが、さすがはイタリア、麺がハンパなく美味い。大満足のランチであった。

 午後は二次予選の曲の練習にあたる。二次には確か、バーバーとモーツァルトのソナタ、そしてコンチェルトを用意していた。二次はもう弾きたくない気持ちと、落ちたら悔しい気持ちとが半々である。とりあえずその日は、何のストレスもない中での練習なので、気分は良かった。他の出場者の演奏も聴きに行き、良いひとときを過ごす。皆、はぎれのよい、面白い演奏だったが、柔らかい音色の人が少なく、もっと綺麗な音を聴いてみたかった。まあ、あまり良いピアノではなかったのだけれど。

 私の演奏は、どうだったのだろう。アリッサが褒めてくれていたけれど、自分の耳は遠くには行かれないから、わからない。考えても仕方ないので、その日はぐっすり眠ることにした。

 ともかく、明日は合格発表の日であった。

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