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2017年7月 2日 (日)

百十一 お見合い

 私の風邪は、微熱も完治し、すっかり良くなった。

 診てくれていた内科のおじいちゃん先生は、「もう大丈夫だな。外国でもどこでも行っちまえ!」と無罪放免にしてくれる。この先生は大変怖いガンコじじいだったが、見立ては評判が良く、今でも娘がお世話になっている医師である。

 そして私の体調が良くなったところへ、父は待ってましたとばかりに見合い写真を差し出してきた。いい人が見つかったようである。私は気が進まなかったものの、半分は、妹ユリコと一緒に面白がっていた。恋愛一直線の人生で一度くらい、見合いなんてものをしてみるのも悪くない。話のネタになる。ユリコは、「お姉ちゃん、可愛く撮ってあげるからね!」と言って、本当に、最高に爽やかな写真を一枚、撮ってくれた。父は大喜びで、でかしたユリコ。と笑い、私に、履歴書みたいなのを書けと言うので、思い切りふざけて、趣味は料理。とか心にもないことを書いて渡した。

 その日が来るまで私は、幼馴染みたちと遊んだり、ショットバーへ行ったりして過ごした。東北の彼が今どうしているか知りたかったので、みんなで実家に電話をかけると、なんと引越しをしていた。今、青森らしい。たぶん彼の方もここで、結婚相手が見つかり、互いに別々の人生を歩んで行くことになるのだが、私たちは面白いことに、ほぼ同時期に結婚をしている。私もそろそろ三十まであと残り何年かとなり、確実に夫との出会いに近づいて行く頃であった。

 見合いの日は、十時十五分に横浜にて、紹介役の方と三人で待ち合わせをした。どうやら、ユリコの撮った、私のとびきり可愛い写真を見て、気に入ってくれたらしい。こりゃあ、とんびが鷹を生んだなあ!とか、紹介役の方に、父は言われたようだ。私は多少緊張して、横浜までの電車の中、貧血で倒れるかと思った。そして、私に会おうなんて思う度胸のあるヤツは、一体どこのどいつだ。顔を見てやろう。なんて、ベルバラのオスカルよろしく、息巻いていた。待ち合わせ場所に着いたらもう二人は来ていたので、私はまず、自分から名乗りを上げて挨拶をした。見合いの君は、大慌てをして、続いて自分の名前を言って会釈した。

 後から聞いた話によると、これは大変、相手を動揺させてしまったらしい。女性の方からさっそうと、しかもフルネームでシャキッと挨拶されるとは、このオンナ、ただものではない。と思うんだって。これから見合いをする女の子、よく覚えておいてね。私しゃそんなことはどうでもいいことだと思うんだけど、よほどインパクトがあったようで、最後までこれについては言われた。面白い。私の方だって、彼の第一印象は爽やかで、写真とは別人だな、合格合格!と感じていたのだが。(その写真はかなりひどいものだったので。)

 そごうのカフェでお茶をしたが、緊張の糸もほぐれたところでお決まりの、
「じゃあ、あとは二人で。」
 という展開。おお、見合いって、本当にそうなんだ!と、軽く感動する私。
 彼とはすでに打ち解け始めていたので、話がはずんだ後、車をとってきて、ドライブでもしようと自然に事が運んだ。

 見合いの君は私よりもかなり年上で、当時三十五才くらいだったと思う。とても誠実そうな、気のいい人であった。しかもそれだけではなく、私と同じB型の、ちょっと風変わりなところもある面白い人だった。どうりで同じ種類の匂いがしたワケである。私たちは初対面にしてはすっかり気が合い、意気投合してしまった。へえ、見合いって言っても、こういうことってあるんだなァ。なんて思ったりしていた。全然気を遣わなくても済んだし、彼の方は私の話を始終笑って、楽しそうに聞いてくれていた。私は向こうでの生活や、勉強のことを面白おかしく話した。そして正直に、実は私、真剣に結婚相手を探そうと思って見合いしたんじゃないんです。と打ち明けた。彼は、納得して聞いてくれた。何でも素直に話せると思えた相手だった。よっちゃんのことだけは、抜きにして。

 彼は、とてもいいヤツだったのだけれど、B型特有の、余計な一言も忘れなかった。私は同じタイプの人間なので全然許せちゃったが、例えば海辺の散歩から戻った時に、

「大丈夫でしたか?病み上がりなんだよね?ごめんね。でもまあ、風邪ひくの、オレじゃないし!」

 とか

「帰り、遅くなっちゃったね。ご両親心配させちゃったかなあ。ごめんね。ま、印象悪くなったら、オレも損だし!」

 とか、おっしゃったりもした。

 冗談のつもりだったんだろうけど、私は密かに違う意味で、心の中で爆笑していた。面白いなあ、この人。よっちゃんとは全然違うわ。彼ならば絶対に言わないようなことを、平気で言う。結婚するなら、どんな人がいいんだろう。いろんな人がいるけれど、私には一体、誰が合うのだろう。だいたい、結婚って何だろう。私って、結婚したいの?いや、まだまだ勉強がしたい。でも、こんな彼と一緒になったら、経済的には安定するんだろうな。それに、楽しい。よっちゃんとはまた全然違って、笑いのツボが一緒だったりするみたいだ。どうしよう。こんなはずではなかった。やっぱり気なんて合わなかったよ〜。破談にして!と、父に言うつもりだったのに。

 私の心は揺れ、とりあえずは無事、見合い終了となった。

 結論を言えば、私にとって結婚とは、何の計算も、打算も、心の迷いもなく、ただただ、直感でビビッと来て、気が付いたら式を挙げていた。というようなものであった。そんなもんである。人生に、目標も計画もない。それが一番である。心の叫びを大切にするべし。

 さてまあ結果オーライなのはいいとして、困ったのは、見合いのその後である。何故だか、見合いの君のことが、心から離れなくなった。

 まったく、気が多い女とは私のことである。

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