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2017年8月 6日 (日)

続編六 リサイタルに向けて

 帰国リサイタル。これは私にとっての、一大プロジェクトであった。

 何が大変だって、演奏だけではない。マツザキさんという、強力な助っ人マネジメントが居てくれたおかげで随分と頼りになったけれど、チケットさばきや宣伝などは、練習に専念したい私にとって、けっこうなストレスだった。まあ、練習に専念って言ったって、毎日かなり遊んでいた私にとっては、はたから見たらマジメにやってたとはとうてい思えないんだけど。

 でも、その不真面目さが功をなし、男女問わず交友関係の広い私は、大勢の客を集めることができた。もう本当に、友情にカンパイってやつである。高校時代の友人らは、物珍しさも手伝って、それはそれは大勢がチケットを買ってくれたし(私は高校時代には美術クラスに居たので、ピアノが弾けることはほとんど知られていなかった)、母の交友関係、近所のおばちゃんたち、それに大学の後輩たちには、夫、コヤマ君が張り切って二十枚近く売ってくれた。ザ、地元パワー。感謝感激である。二月の時点でチケットは百二十枚出ており、結局のところ、招待も入れて、二百三十席ほどが埋まった。ホールは三百席ちょっとくらいだから、パッと見、ほぼ満席に近かったのである。集客についての不安は当時ものすごく抱えていたので、本当に嬉しかった。

 プログラムもなかなか決められなかった。迷いに迷い、マツザキさんや、師匠たちと相談をして、やっとこさ決めた感じ。結局、前半に、モーツァルトのソナタK333、スクリャービンの二つの詩曲、プーランクの三つの小品。後半に、バーバーのソナタ。アンコールに、ショパンのノクターン二番と、小犬のワルツを弾くことに決めた。

 ベルギー大使館の後援もとれた。これは嬉しかった。確かマツザキさんが掛け合ってくれたのであって、大変感謝している。

 奈良先生のレッスンも久々に受けに行った。教える立場から言っても、先生のレッスンはとても参考になった。いい助言をしていただいて帰って来る。人から指摘されることには、深い意味があり、的を得ているのだということを身にしみて感じていた時だったので、先生のレッスンは大切に聞いた。そして先生は、私が貧乏だったのを知っていたので、レッスン代を五千円にして下さったのである。半額。出世払い!ありがとう、先生!

 後輩のコヤマ君からはちょうどその時、彼の師匠が大学を辞めさせられると手紙をもらったりしていた。私は署名運動に協力して、微力ながらも力になれればいいなと思った。彼の方は卒業生代表で、読売新人演奏会に出演が決まったそうで、私もとても嬉しかったのを覚えている。

 でも私はこの時もまだ、彼のことは後輩止まりで何の意識もしていなかった。雲の上のなっちんは、ガッカリしていたに違いない。そんな彼女の想いは通じず、私は新しい恋に出会ってしまうことになる。

 本番二ヶ月前。私は、高校時代の彼と会っていた。携帯電話を買うか買わないかで、相談をしていたのである。その頃はぼちぼち、生徒からの問い合わせが入ったりして、留守中の私は電話を受けられず、これは無理をしてでも携帯を持った方がよいかと悩んでいたからである。貧乏な私が迷っていたら、彼はサラッとこう言った。

「しょ〜がねえなァ。オレが携帯、買ってやるよ。そのかわり、毎月の支払いは頑張れよ?」

 私は何だかとってもドキドキした。例の、一言惚れってやつである。こんなこと、よっちゃんにも、お見合いの君にも言われない一言であった。アホみたいだけど、彼が言うとすごくカッコよくて、サラッと決まっていたのである。私の心臓には一発の矢が命中した。そして、この日を境に、彼との仲は急進展して行ったのである。

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