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2017年8月23日 (水)

続編二十三 エミコのリサイタル

 友人エミコのリサイタルは、都内で行われるのかと思っていたら、なんと私の地元の会場となった。彼女は迷った挙句、集客しやすい、音大近郊に決めたらしい。彼女の地元は岡山なので、そちらでも多分、事前に開いたはずである。私はその日、午前中に珈琲屋の友達とお茶をして、それからお店で働くコヤマ君に会い、その後によっちゃんと合流をして、会場へと向かった。

 多分、よっちゃんを連れて来るとは思っていなかっただろう、コヤマ君は、ロビーで友人と一緒に私を待っていてくれて、入って来た私たちを見て、全員、固まってしまった。なんちゅうか、緊迫した空気。それに追い打ちをかけるかのように、コヤマ君は開口一番、「結婚、しないんですか?」とよっちゃんに語りかけた。よっちゃんの顔色が変わる。全くもって、しどろもどろな答え。私は、険悪としか言いようがないその場を解散とした。

 エミコの演奏は、素晴らしかった。勉強の成果が見え、フランスもののプログラムにますます磨きがかかった演奏であった。私はとっても嬉しくなり、自分もまた、頑張らなくちゃ。という気持ちになる。友人が頑張っている姿は、本当に嬉しいものだ。とてもいい演奏会であった。集客がいまひとつだったのが惜しい。私は終演後に片付けを手伝い、山のような荷物を持って、彼女をホテルへと送った。

 翌日、彼女の演奏会に刺激を受けた私は、ピアノを元気よくさらい出していた。

 その時だった。よっちゃんから電話が入り、思いがけないことを聞かされたのは。

 そういえば昨日、彼女の演奏会の打ち上げの時に、よっちゃんはファミレスで私とは別の席に座り、私の女友達の話し相手になっていた。その時、まさかの私の悪口を聞かされたのである。私の日頃の男関係の悪さに愛想を尽かした友人が、よっちゃんにその一部始終を話した。そこまでは私が悪いのであって、まあ仕方がないことなのであるが、それを友人のエミコや他の友人の名前を挙げ連ねて、皆が私のことを一線引いている、というようなことを、よっちゃんに洗いざらい喋ったのである。日頃、オトコをはべらかせていると、思わぬ友人の裏切りにあうので要注意。

 彼は気が動転して、私にそのことを伝えてしまった。それを聞いた私は一気にテンションが下がる。彼は、私が何も知らずに、みんなに笑顔で接しているのが悔しかったからだ、と言った。でも一番ガッカリしたのは彼だったろうに、そしてそれを心に押し留めているのが困難だった彼は、私に喋ってしまったのだ。

 私は途方に暮れて、ピアノなどもう弾く気にもなれず、レッスンを終えてから、抜け殻のように珈琲屋に行ってしまった。そこで会ったコヤマ君に、耐えきれずに打ち明ける。それを聞いた彼は、一言だけ、どうして彼はそのことをミヤっさんに伝えてしまうんだ。と言って、何も優しいことを言ってやれずにゴメン。というセリフと共に、自分に腹を立ててその場を立ち去ってしまう。 あんまり書くと夫は怒るけど、そういう、何というか、女に気の利いたセリフが言えない彼を初めて知った私である。

  私は翌日もらったエミコからの電話に、迷った末、その一件を伝えて、私が今までとてつもなく不愉快な思いにさせていたのだとしたら悪かった、と心から謝った。すると彼女は大変ご立腹となり、何を言っているんだ、私はカオルの男関係に呆れてはいるが、嫌ってなどいないぞ。エミコはカオルが大好きだぞ。と、愛の告白をしてもらう。友情に感動である。私は多少、元気を取り戻し、そしてまたピアノへの意欲も戻った。私が自由過ぎる恋愛に終止符を打ち、彼女いわく真人間に戻った時に、一番祝福をしてくれたのは、紛れもないこの友人、エミコである。

 とりあえずは、十月の末に再会するコルニル先生とのレッスンに向けて、新しい曲を頑張って仕上げなければならない。それから、大学で受けるペルティカローリ先生のレッスンも迫っていた。

 しかし、アメリカでの9.11テロ事件の影響で、この時、飛行機は次々とキャンセルになり、おまけに乗るつもりだったスイスエアーはつぶれると聞かされ、フライト計画が難航していた。

 そんな中、無事にインドから、元気そうな妹のユリコが帰ってきた。そして私は彼女を初めて珈琲屋に誘い、コヤマ君を紹介することになるのである。

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