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2017年8月14日 (月)

続編十四 珈琲屋での出会い

 ある日、ふとしたことで、生徒たちの発表会を思いついた。

 そうだ。そろそろやってみようか。小さな会くらいだったら、できるかもしれない。ちょうどあの珈琲屋さんがいい感じではないか。

 私は後輩のコヤマ君に電話を入れてみた。ちょっと相談すると、ボクがお店に話を通しておいてあげるよ。と気のいい返事をもらえる。その時は自分一人でやるつもりでいたのだけれど、後々、彼の生徒さんも一人だけ、一緒に出してもらえないか、と頼まれ、それならば一緒に進行しよう、と言うことになる。おおよその察しはつくとは思うけれど、この話が出てから、私たちは会う回数も増え、お互いに少しずつ惹かれあい…と言いたいところだけど、そこは私の完璧な片思いで、事は進んで行くようになるのである。

 私は何度かその珈琲屋さんのオーナーとお話しをしながら、発表会の打ち合わせをした。彼女は音楽家が大好きなので、夫も大変好かれており、私たちは本当にお世話になっている。彼女の息子のヴァイオリニストあっちゃんは、パリから戻って来て、後ほど私たちと親友になるのだが、彼の買ってきたビールやワインを、夫はバイト仲間たちとこっそり、珈琲屋の冷蔵庫から拝借し、後で呑気なあっちゃんは「あれぇ、確かここに入れといたはずなのに、おかしいな?」と言って首を傾げていた。裏で知らんぷりをしていたのは、悪いコヤマ君たちである。

 この店ではもう一人、親友となる重要人物にも出会う。ロシア留学帰りのピアニスト、がんちゃんである。彼女は夫から紹介を受けたのだけれど、「ミヤっさんに、紹介したい子がいるんだ。怯えたクマのような目をした子でね。いい子なんだよ。」と言われたのが大変印象的である。背の高い、大柄のがんちゃんは、彼の言う通りに気のいい目をした、豪快によく笑う女の子であった。彼女とは今もなお、ピアニストのマリコと共に、仲良し続行中である。本当にこの店は雰囲気の良いところで、ついつい長居したくなってしまう場所だった。私はよくここに入り浸り、いろんなお客さんと話をしたものである。

 私はそれまでのマッカーサーに代わって、何となしにくつろげる場所が出来たのだけれど、一方で、高校の彼氏とはケンカ三昧で、仲直りを繰り返してはぶつかっていた。後半はほぼ、会うたびにケンカになっているから、同級生というのは大変である。仲の良い時はすごくいいんだけれど、いちいち消耗してやっていられない。大学時代にも一度、ケンカの多い彼と付き合っていたことがあるんだけど、もうこの年になるとなるべくならば、要らぬ体力は使いたくない。

 そして私は実家でも、両親との同居に限界を感じていた。母はちょうど体調が不安定な時期だったようで、この頃は不機嫌な日が多く、私のような勝手で気の利かない娘に腹をたてることが多かった。いろいろとうまくいかないことが多い時期で、私にとっては、コヤマ君をはじめ新しい友人たちとの出会いは、唯一の心の支えであり、楽しみでもあった。何といっても、音楽をわかってくれる人たちと一緒にいることは、心強かった。もう一度あの頃の生活に戻れるような気がして、ワクワクしていたのかもしれない。

 コヤマ君との初めての打ち合わせと、連弾をしたのもこの時期。六月の下旬である。

 この日は体調が悪くて疲れていたのだけれど、彼との連弾はとっても楽しかった。音楽漬けで、久しぶりに幸せを感じている私。彼はとても多くの曲をレパートリーにしているようで、私は何だか恥ずかしかった。この時はまだ、さすがに気の多い私も、夫のことは好印象ではあったが、心臓に矢までは刺さっていない。けれども本当に久しぶりに音楽を知る男の子に出会って、すごく嬉しかったのは確かである。

 そしてこの月、私はこれまた久しぶりに、大物の演奏会へと出かけた。アリシア・デ・ラローチャ。私の大好きな、ピアニストである。

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