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2017年8月10日 (木)

続編十 マッカーサーでの演奏

 厚木のショットバー。知る人ぞ知る、昔っからある掘っ立て小屋、マッカーサーギャレッジである。

 私は音大生の頃、そこでバイトをしていた。そこにはマッカーサー元帥が乗ったキャデラックや、グランドピアノが置いてあり、たくさんの若者たちが集っていた。昔はもう少し大人っぽい場所だったと思うが、今は本当に、若者たちのたむろう場所と化している。

 そこの社長がなかなかの気まぐれ屋で、普段はジャズバンドが生演奏していたのだが、急に何を思いついたのか、クラシックピアノを演奏してくれ、と言い出した。そこで私のことを思いついた、という訳である。週に二、三回。夜六時か七時から、十一時半くらいまで、何ステージかに分けての演奏だった。ギャラは六千円。安いが、仕事のない私は何でもやる勢いだったので、二つ返事で引き受けた。「今日の演奏」と言って、外には黒板が立てかけられたので、私の名前も書かれた。面白いことに、それをフラッと通りがかったコヤマ君はしっかりと目撃していて、ミヤっさんも食ってくのに大変だなァ。なんて思っていたそうである。

 ここでの演奏は、一年くらい続けた。そのうち気まぐれな社長は、今度はDJバーにするからと言って、クラシックはおしまい。ということになったのである。ここで演奏することについては、よっちゃん始め、高校の彼なども最初は猛烈に反対をしてきた。仕事が来て喜んでいた私としては、びっくりした。なんだそりゃ。夜に、ショットバーでやるって言うのがそんなに嫌なんですかい。私が素直に言うことを聞く訳がないので、そんなことはスルーして仕事に出た。結局、家の遠いよっちゃんは一度も聴きに来られなかったけれど、地元である高校の彼なんかは、友達を引き連れて応援に来てくれたりしている。本当に、たくさんの友人たちが、飲みついでに聴きに来てくれた。偶然、後ろの席に座ったカップルが、小学校時代の同級生だったりもして、それをきっかけに、クラス会をやろうと言うことにもなる。

 演奏中にアンリオ先生の訃報が入った日は、動揺を隠しきれず、それでも演奏しながら、想いを込めて先生に捧げた。

 マッカーサーでの演奏は、楽しいことも多かったが、やっぱり私にとって、夜遅くまで演奏をするというのは体力的にキツかった。一年経って、そろそろ終わりと告げられた時はホッとした。その頃は生徒も増え、他の演奏活動も入っていたりしていたので、ちょうど良かったのだ。

 石の上にも三年、と言うが、日本に帰って三年も経つ頃には、私はモーレツに忙しくなっていた。その前後、本当にいろいろなことがあった。夫と暮らしてどうしても生活のためにお金が必要になり、毎朝配達の仕事をやった時もある。お金には本当に、始終苦労させられたが、こうして今思い返すと良い思い出だ。人生、山あり谷あり。常に修行。金よりも、愛と冒険である。

 そういうわけで、リサイタル後の私はボヤボヤしている暇などなかった。

 そしてその夏には忘れられない出来事、十才のエヴァの来日がやって来る。

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