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2017年8月 9日 (水)

続編九 コンクール、コンクール

 さて、無事に帰国リサイタルが終わってからというもの、私はホッとしてなどいられなかった。終わってからの一週間は、本当に早い。ウッカリすると、一日分くらいの勢いで過ぎてしまう。翌日からは、山のような花束の整理、そして片付け、来て下さった皆様へのお礼に、礼状書き。これで三日は過ぎる。終わったその日は興奮して眠れないから、疲れがやっと癒えてくるのは、三、四日を過ぎたあたりからである。

 ピアノをまともに再開することができたのは、十日後だった。私の次の目標は、浜松の国際コンクールである。それから、新しく出来たトッパンホールのこけら落としの演奏家募集にも応募した。これには、三百五十六名の応募者のうち、三十九名の中に残り、テープ審査が通ったのでびっくりした。確かその後更に十二名の中に絞られたように思う。お見合いの君は自分のことのように喜んでくれて、私は感激した。反対に高校時代の彼は、同級生の定めなのか、ライバル意識をむき出しにして、へえ〜、すごいじゃん。くらいにしか言ってこない。彼は、リサイタル終了後、私に対して少し刺々しくなっていたから、ヤキモチを焼いていたのかもしれない。よっちゃんはというと、合格通知を告げると、おぉ〜?それはそれは!と、大笑いをしてひょうきんに喜んでくれた。皆、個性それぞれである。

 リサイタルに来られなかったのは、残業で抜けられなかったお見合いの君と、確か海外にいた東北の彼もそうであったのだけれど、東北の彼は何週間か後にタイから帰って連絡をくれて、久々にデートをしている。彼からは相変わらず、仕事に対する自信に満ち溢れる話を聞かされて、楽しかった。けれどもう、今となっては私たちは、お互いに別々の世界へと歩み出していた。残る気持ちは、お互いを応援する心のみ。こういうのもまた、いいもんである。彼にはその後、よく恋愛相談にも乗ってもらった。結婚したら絶対に連絡をくれと言われていたのでメールをしたが、心からお祝いしてもらったのを覚えている。でもそこから何十年もご無沙汰となり、つい最近、久しぶりに再会をした。

 話は戻るが、私はコヤマ君にも誘われて、珈琲屋の演奏会に出たりした。コンクール用の曲を披露してきたのだ。そして彼もピアノを弾いている。彼はとてもいいものを持っているのに、埋もれてしまうのはもったいない、と日記には書かれている。純粋に音楽を愛し、毎日地道に、生きるための努力をしている人。私は結局のところ、そんな夫に惹かれたのだ。やはり、音楽をやっている身としては、同業者であり、音楽を知り、愛している人が一番安らいだ。まあ、後日談なので、それは置いといて。

 私は色々なコンクールを探しながら、少しずつチャレンジをしていた。浜松国際には、よっちゃんにぜひ見せてあげたくて一緒に行ったのだけれど、ヨーロッパのそれとは違い、コンクールの雰囲気は全然面白くなかった。私はモーツァルトのソナタと、ショパンのバラードを弾いたが、体調もイマイチで、パッとしない出来であった。結果は、もちろん不合格。やっぱりな、という感じ。審査員の中村紘子さんに会えただけで想い出に残った。コンクールとは、スポーツだ。しかも、短距離走である。

 トッパンホールのオーディションは、その一週間後。この日はコンディションも良く、順調だったのだが、行き先を間違えてまさかの遅刻。心中慌てているし、たまたま一緒の受験者だった女性はべらべら喋りかけてくるし、集中したいのに、散々だった。でも、本番はなんとか自分らしく弾けて、一箇所ミスって飛んでしまって悔しかったところを除けば、プーランクもバーバーも、リサイタルの時よりも落ち着いた演奏が出来たように思う。

 弾いたあとに質問を受けたのだが、「バーバーと、プーランクの音色は、変えますか?」との問いに、私は面食らってしまった。どう応えたのかは、全然覚えていない。そりゃ、変えたいと努力はします、とでも言ったのだろうか。結果は、残念ながらこれまた不合格であった。しかし私は予想が出来ており、次行ってみよ〜、次!と、前向きである。コンクールなんて、そんな気持ちでなかったら、やっていられない。そして反面、コンクールって結構面白いな、という気持ちも出てきていた。手応えはあったし、他の演奏者を聴いていても、自分も引けを取っていないぞ、と思えたからだ。

 そして、友人ユキから国際電話をもらい、ブリュッセルでも無事に今年の試験が終わり、何でも今年は厳しくて、あんなに上手なキボウちゃんが落第し、ユキたちは満場一致で合格したことを知らされる。

 本当に、音楽の世界とは深く、厳しく、そして面白いものである。

 私はぼちぼち日本での活動が増し、そんな中、私が以前バイトをしていたショットバーからお声がかかり、夜のステージで演奏をしてくれないか、という話をもらうのである。

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