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2017年8月18日 (金)

続編十八 カオルさん、愛というものを知る

 午前中、十一時半からコヤマ君との合わせ。この日は実家のピアノで練習した。

 前日クラス会で遅かったし、だいたいにおいて夜型だった私は、とても疲れていたのだが、朝型の彼と付き合うようになってから一転せざるを得なくなる。この人はどんなに夜遅くまで遊んでいようとも、次の日の朝はシャキッと起き上がれるから羨ましい。朝の開店前七時半頃からお店で合わせ、なんて日もあったが、私はコヤマ君に待たされたことは一回もなく、今でも夫は待ち合わせ十分前には到着している男である。 私は今じゃあ毎日規則正しい生活を送っているが、それでも娘の学校が休みとなるとあっけなく崩れてしまう。昔は明け方に寝るのなんてザラだった。若かったんだなあ。と思う。

 実家での合わせは、お昼を挟んだので、彼に素麺と、焼き鳥を出してあげた。コヤマ君は、彼のCDコレクションの中から、すごく素敵なアンコール特集を持って来て、貸してくれた。四時からバイトだったので珈琲屋まで送って行こうとしていたら、ちょっと財布を見たいから一緒に行こうよと言われ、何だか少し、嬉しかった。デートみたい。

 珈琲屋では、スタッフの人たちとだんだん仲良しになっていた。皆、私が顔を出すと、喜んで迎えてくれた。そして私はこの時、人生で初めて、大切なことに気付いている。

 コヤマ君。彼と一緒にいると、私はすごく優しい気持ちになれる。それはどうしてだろう。

 彼の目がとても純粋だから、惹かれるのかもしれない。

 そして私は、これまでの人生で、誰かと付き合う時、相手から何かを与えてもらうことばかりを期待していたことに気が付いた。

 私は今まで、誰かに与えることをしていただろうか。高校の彼氏とはケンカばかりで、お互いに、自分の期待を相手に求めることばかりを要求していたのだ。私は彼に、何を与えてあげたんだろう。よっちゃんは少し大人で、そんな私を大目に見てくれているからうまくいっていたのかもしれない。少なくとも私は、よっちゃんに甘えていた。そして彼の方は、私の心を自分が心底キャッチできていない不安を覚えていた。

 私はこの時初めてそうした自分に気付き、そして今、目の前にいるコヤマ君に、むしろ与えてもらうよりも与えてあげたいと思っている自分がいることを知った。別にそれは、尽くし子ちゃんになりたい、と思ったわけではない。ごく自然に、自分から、相手に対して自分の出来ることをしてあげたい。と思ったのである。これは、愛情というものであった。そう、自分の子どもに対して、全ての母親が自然と感じる、愛情。それと同じである。何の打算もなく、何の見返りも期待せず、ただひたすら、自然とそれが出来る相手というものは、存在するのだ。私はびっくりしたと共に、今までの自分を深く反省した。私は何と勝手な女だったのか。まあ、今でも勝手きままであることには変わりないんだけど。そしてそんな私を見てもまた、夫も「変われ」とは強要しない。私も彼に対してそう望んだことはない。それが、相手に対する愛情であり、思いやりである。私は本来が自分勝手なので、誰とでもそれを成り立たせることができない。コヤマ君との出会いは衝撃であり、私の中で、何かがガラガラと音を立てて変わって行ったのである。

 私は、自分が壊れてしまいそうだった。コヤマ君と一緒にいて、その目を見ていると、身体が粉々になって張り裂けそうになった。だから、高校の彼に会って欲しかった。そして受け止めて欲しかった。けれど、その願いは叶わなかった。彼に連絡を入れて、会ったのだけれど、もう私の中に彼はいなかった。お互いがすれ違い、限界を感じていた。そして、私たちは話し合い、しばらく離れていようと言うことになった。

 私の心は、激動の中にいた。そんな中でも、ずっと一緒に、それこそ六年間も一緒だったよっちゃんとは、最後まで離れられずにいた。彼と別れる理由なんて、何もなかった。でもそれは、裏を返せば、どうにかしてでも一緒になりたい、という意識もまた、失われていたということなのかもしれない。

 そして運命とは渦巻きのように、グイグイと予測不可能な方向へと進んで行くのである。嗚呼、我が娘なっちんのパワー、恐ろしや。

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