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2017年8月 2日 (水)

続編二 夫との出会い

 いきなりドカンと行くけど、このタイトル。でも本当に、帰国してすぐの十日後に、私たちは出会ったのだ。まさに娘なっちんの、さしがねとしか思えない。雲の上から見ていた彼女は私の行動の一部始終に焦りまくって、このタイミングで、どうにかして私たちを引き合わせたのだ。多分ここで出会わなかったら、私たちはこの先も巡り合っていないだろう。縁とは本当に、不思議なものである。

 帰国してから私は、まず師匠たちにご挨拶をした。Mr.カワソメには、今後のことについて色々アドバイスをしていただいた。さすがは大先輩である。奈良先生は、この時ちょうどお忙しそうで、それどころではないと言った感じであった。大好きなアキカさんにも、連絡を取った。早く会いたくて仕方がなかった。彼女には、仕事の方もたくさんいただき、本当にお世話になる。

 さて、十月二十八日、木曜日。

 私は母校である、昭和音大のA306号室へ行き、ピアノを触らせてもらった。ヤマハのそれは思ったよりも良くて、部屋も広々としていた。ここで授業も受けたことのある、懐かしい教室である。昨年に弾かせてもらう予定だった学祭でのピアノを、カワソメ先生のはからいで、今年に持ってきていただいたのだ。

 学生たちは、皆忙しそうに学祭準備をしていた。その教室は、例の「ピアノ愛好サークル」の持ち部屋で、私は三日後の本番のために試弾に来た、というわけである。部長さんを探したが居らず、他の部員たちは、そのうち来ると思います、と言っていたので、私はピアノを弾き続けていた。

 そうこうしているうちに、「部長さん」はフラッとやって来た。

「あ〜、どうも、ミヤチさん?よろしくお願いしますぅ。ピアノ、適当に弾いてっていいからね。ミヤっさん、ベルギー行ってたんだよね?いいな〜。楽しかったぁ?あ、ボク、部長です〜。学祭、よろしくね〜。」

 みたいな会話を、多分したと思う。

 痩せて背の高い、飄々とした風貌の部長。彼は大学四年生であった。第一印象は、何だこの子。変わった子だなぁ。相当面白い奴か、相当ヤバイ奴か、どっちかだなぁきっと。というものだった。

 何度か言うけれど、私は一目惚れというやつをしたことがない。どちらかと言うと、一言惚れならばある。これが、私と夫との出会いだった。そしてこの後、ちょくちょく会う機会はあったものの、ずっと先輩後輩の関係が続いていた。私が好きだとはっきり意識したのは、この日から二年後のことであり、結婚に至ったのは、四年後のほぼ同日のことである。

 昭和祭での演奏は、日本に帰って来てからの初めての演奏だったせいか、結構緊張していた。どんな小さな本番も、もちろん大きな本番も、きちんとした演奏で出たい、という心構えだったせいかもしれない。

 モーツァルトのソナタと、アンコールにスクリャービン。三日で仕上げたわりには、まあまあ、まともに弾くことができた。この時、お見合いの君も聴きに来てくれたのであるが、「部長さん」は、誰だあいつ?と首を傾げていたそうである。その時はまだ、帰国リサイタルのプログラムも決まっておらず、やっぱりモーツァルトを入れようかなぁ、と迷っている。夫が、なかなかチャーミングなモーツァルトだったよ、と言ってくれたのが印象的だった。本人、あんまり覚えてないと思うけど、縁のある相手との出会いの日とは、意外と細かいところまで覚えているもんである。ここに書いた詳細は、はっきり言って、日記にはあまり書かれていない。私の脳裏にしっかりと刻まれた記憶を、引っ張り出してきたものだ。

 そして私たちは、年末の飲み会で会うまで、何の連絡先の交換もしなかったと思う。たぶん。

 私は、新しい場所での仕事探しと、リサイタルプログラム決めに、躍起になっていた。

 山のようにある自由な時間の中で、友人たちと語り合い、また一緒に帰って来たよっちゃんの方も、新しい生活へ歩み出そうとしていた。

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