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2017年8月29日 (火)

続編二十九 よっちゃんとの別れ

 その日。

 私はよっちゃんに誘われて、埠頭のマンションを見に行った。

 そこはまずまずのところだったが、部屋の印象はほとんど、覚えていない。がらんとしていて、殺風景で、外の景色だけは綺麗だったような気がする。いや、わからない。私の気持ちが、その時の想いをそうさせているのかもしれない。

 それよりも私は、二人でその部屋に入り、よっちゃんの背中をぼんやりと見つめながら、何故急に彼がそんなことを言い出したのかと考えていた。私はずっと、心ここにあらずの、上の空だった。

 今日、私は、決断することになる。そう感じた。これからコヤマ君と生きて行きたいのか、それとも今私の目の前にいる、ブリュッセルで懐かしい生活を共にした、よっちゃんと生きて行くのか。

 その日最初によっちゃんと顔を合わせた時は、私はとてもホッとして、温かい気持ちになれた。でも、埠頭のマンションを見ているうち、辛い気持ちがわあっと込み上げてきて、もう、自分の気持ちは隠せないと思った。いや、自分の気持ちを確信したのだ。今更ながらに、もやもやと引きずっていた雲がパッと晴れ、同時に稲妻に打たれたかのように、私の心は決心に奮い立った。

 NHKホールのコンサートも、何を観たのかさっぱり覚えていない。終わってから、たぶん一緒に来ていた彼のお母様たちとも会食をして、私はもう、ギブアップ寸前まで来ていた。早く、二人だけになりたかった。

 食事が終わり、私たちは公園を散歩した。秋の夜の散歩は、とても気持ちが良かった。今でも昨日のことのように、この風景を思い浮かべることができる。

 静かな風が吹き、私たちはライトアップされた草花を見て、静かに歩いていた。私は突然、口を開く。
 ごめん。もう、一緒にはいられない。私は泣いた。泣いて泣いて、逆によっちゃんに慰めてもらったくらいだ。

 何を話したかは、覚えていない。コヤマ君のことを喋ったのか。わからない。でも彼は、全てを見通していたと思う。そして、私に一言、笑って肩を叩きながらこう言った。

「そうか、わかったよ!幸せになれ。」

 と。

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