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2017年8月17日 (木)

続編十七 クラス会開催

 さあ、ここから一気に夫との進展、と行きたいところだけれど、事態はそう簡単には、進まない。それがものごとの実態、と言うもんである。

 私はこの時期、クラス会を開く。発表会直前に、何をやっているんだか、バタバタと忙しかった。

 例のマッカーサーで弾いていた時に、偶然後ろに座っていたクラスメイトのおくべえが、おい、クラス会、やろうぜ。と言ってきて、その後もしつこく言ってきたので、しぶしぶ幹事を引き受けたのである。それは、小学校六年生のクラス会であった。彼の方も一緒にやるよ、と言っていたのだけれど、仕事の忙しさに、結局、私が一人でほとんどやることになってしまった。まあ、学級委員だったし、いいんだけど。とにかく、それが六年生の旧友たちの、初めての集まりとなり、その後、その会は何度も開かれている。相当、インパクトのある仲間たちだったのだと思う。お盆だったのでちょうど帰省がてら、二十人近く集まってくれて、ものすごく盛り上がった。

 三十を目前にして集まった仲間たちは、皆それぞれの今を生きていて、それはそれは面白かった。人は大人になるものだ。会った時には顔も変わっていてびっくりするが、話していて十分も経つと、全員昔の顔に戻って見えて来るから不思議である。先生もいらっしゃって、懐かしい昔話に夢中になった。チョーク入れに死んだネズミを入れたのは誰か?だとか、おくべえをストーブの囲いの中に閉じ込めて、餌をやらないで下さい、と張り紙をした話(彼は当時、モンチッチにそっくりだった)、もう出てくる話が全て愉快すぎて、皆、食べるのを忘れて話し込んでいた。

 結局、二次会は二時頃まで続き、幹事の私は働きっぱなしで、クタクタになったが楽しかった。チビの頃のメンバーは、何をやっても気取らなくていいもんである。ぶっちゃけ、東大卒のクラスメイトなどに、今の年収も躊躇せずに訊ける仲。そういうのって、なかなかない。昔の、アホな仲間にカンパイである。そして私は帰り道、NHK特派員をやってる男子と東大卒の男子を送ってあげたのだが、幸せな結婚をした二人は私のことを大変心配して、始終、オマエは結婚、大丈夫なのか。早くしろよ、と言われた。余計なお世話である。

 楽しかったが疲れを引きずった次の日、私は追い打ちをかけられたかのように、コヤマ君との合わせがまた入っていた。私たちは発表会のトリに、バーバーの連弾をしようと言うことになっていたのだが、これがまた難しく、なかなか合わなかったのだ。だから私たちは発表会の九月二日がやって来るまで、毎朝お店のピアノで合わせようと言うことになった。これが、私の心の中で、彼を決定的なものにしてしまう。

 音楽とは、魔物である。一緒に奏でる相手と意気投合して恋に落ちることもあれば、その音楽感の違いに決裂してしまうこともある。

 彼はとてもいい匂いがした。女性にとって、本能的に好きか嫌いかと感じるのは嗅覚である。これに逆らって頭で判断してしまうと、絶対にうまくいかない。そして彼は、大きな、ピアニストにとっては最高の手をしていて、私はその手が大好きになった。

 自分たちの結婚に迷ったら、まず、相手の手を見てみるのがいい。本当に惚れている相手ならば、その手を見ただけで運命の人だと確信するはずである。そこそこの相手なら、まずそこまで何とも思わないはずだ。私は、夫の手は私にとって別格過ぎたからハッキリと感じとることができたが、よくわからなければ、手をつないでみるといいと思う。フワーッと熱い何かが込み上げて来て、ああ、この人は優しい人だなとか、安心できる人だなとか、実は冷たい人だとわかってしまったり、何もこれは、音楽家に限ったことじゃあなく、誰でも経験したことがあると思う。一度何かの本でそんなことが書かれているのを読んだことがあったように思うが、私は、夫の手には何かただならぬ魅力を感じる。そして、ピアノに並んで座った時、本能的に、ああ、この人だなあ、と直感した。留学を決めた時もそうだったけれど、何事も直感と本能のみで生きる女である。

 私は、久しぶりに、共に音楽を楽しめる相手と巡り会い、自分の中で何かが壊れるような、幸せと苦しみの叫び声が同時に上がったかのような感覚に陥っていた。ここまで来れば、しめたもの。雲の上の天使、なっちんは、ほくそ笑むように見守っていたであろう。彼女は私たちの間に、この瞬間を逃さず、電光を落としたのだ。間違いない。

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