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2017年8月22日 (火)

続編二十二 東北へ

 いい天気だ。急に思いついた旅には、おあつらえ向きの秋晴れ。

 旅っていい。新幹線って素敵だ。新たな気持ちになれるから。

 こうして日記を読み返してみると、東北の彼は、私の人生の所々で現れ、恋人でなくなった時も、良き友人として励ましてくれている。

 この時、彼は中国への転勤が決まり、意気揚々としていた。私は前から、三十を境に彼と会って話がしたいと思っていたので、これは昔から決められたことだったのではないかと思われるくらいだった。こうしたい、と漠然と思っていることって、叶うのかもしれない。でも、コヤマ君とのことは。その時の私には、全くわからなかった。

 東北の彼とは、温泉めぐりや、喜多方ラーメンめぐりなどをして、楽しい時を過ごした。彼は、悩み渦中の私をさりげなくフォローしてくれた。

 彼とは、お互いの人生を心から応援していたが、昔っから相手のことよりもまず自分、というスタンスであった。それが、その時の私にはよくわかった。でも、私が抱く、コヤマ君への感情は違う。全く今までの私にはなかったものだ。それだけに、私は無残に壊してしまいたくなかった。大切なガラス細工を手渡され、どうしてよいものやらわからず、不安でたまらずに、オロオロとしてしまうような気持ち。

 私は東北の温泉に浸かりながら、ぼんやりと、今までのこと、そしてこれから自分はどうしたらいいのかを考えていた。川沿いの静かな温泉は、ある意味現実から逃避できて最高だった。張りつめ、ざわついていた心が、ゆっくりと癒されるようだった。ずうっとこうしていたかったけれど、そうも言ってはいられない。私は彼に別れを告げ、月曜日の午前中の新幹線で、現実へと舞い戻った。

 帰って来た私は、幼馴染みのヨシエとミーちゃんに会う。彼女たちに話を聞いてもらいたかったが、私はうまく喋ることができなかった。私の今の複雑な心境を話したところで、とうていきちんと理解してもらえる気がしなかった。私は諦めて、珈琲屋に顔を出した。急に東北へ行くと言って出て行った私に、コヤマ君は驚いていたが、何も訊かずに迎えてくれた。むやみに詮索をしない。これが夫のステキなところであり、裏を返せば面倒臭がりなところである。

 現実に戻って来た私はもう、自分自身をどうにかしたかった。全くもって、取り扱い不能と化していた。

 そしてその翌々日。パリの友人、エミコの、帰国リサイタルが開かれた。

 私はこの日をとても楽しみにしていて、よっちゃん共々、応援に出かけた。

 そこで私とよっちゃん、コヤマ君の三人で、バッタリと、ロビーでの鉢合わせとなってしまうのである。

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