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2017年8月20日 (日)

続編二十 直感

 コヤマ君と二人で写った写真。そして、私たちの前に写っている、可愛い女の子。

 私はこの写真を見つめていた。

 何年か先に、私たちが二人で、授業参観か何かで、我が子である女の子を優しく見守っている。そんな映像が脳裏にパアッと浮かんで消えたのである。今ならばわかるが、それは紛れもない私たちの娘、なっちんである。

 それから、最後に撮った集合写真。私とコヤマ君が真ん中に座り、生徒たちが晴れやかな顔で写っている写真。

 私は、自分たちを見て、何か漠然とした予感を感じた。

 私たちは多分、この先、ずっと一緒に人生を歩んで行くことになるだろう。そんな気がした。そしてそんな気持ちになった自分に驚き、焦った。私には霊感などないのだが、人生においてここぞという時、直感が働く時があるのだ。ごくたまに、不思議な体験をする。今出かけたら事故に遭うぞ、とか、そういう類のものである。それは多分、太古の昔から、人間に少なからず残された、第六感というものだろう。その後私は、コヤマ君のアパートに届いていた電気代の請求を見て、その瞬間自分の将来の名前も飛び込んできたりしていたので、ことごとく、雲の上の天使は私に呼びかけていたわけである。そりゃ、妄想だよ、と言う声も聞こえてこなくもないけど。

 でも何故?その時の私にはわからなかった。彼にとって私は、ただの先輩でしかないのだ。私が抱いている感情には薄々気付いているだろうが、そんな予感なんてしちゃったところで、まったく現実味をおびていない。ただひたすら、片思いがむなしくなるだけである。

 私はガッカリして、写真を見つめていた。でも、何度見ても、彼とは何か深い、きずなのような繋がりを感じる。前世があったのなら、何か縁があったのだろうか。彼とだったら、結婚をして、人生を一緒に歩んで行きたい。そう思った。こんな気持ちは初めてのことだった。それなのに彼はまだ二十六才。そんなこと、考えもしない年だろうな。日記にはそう書いてある。私が先に逝ったら夫よ、どうぞ読み返して泣いてくれ。

 私はこの先、どうしたらいいんだろう。よっちゃんとも別れられない。いや、別れた方がいいのだろうか。わからない。

 そんな私の気持ちにコヤマ君が決定的に気付いたのは、それから間もなくしてのことだった。当然、私にはよっちゃんがいることも知っているし、彼は彼で、まあ色々あっただろうから、私たちの関係は非常に曖昧なものとなった。そしてそんな中、あの痛ましいニューヨークでの、ツインタワー墜落事件も起こった。私たちはちょうど電話をしている最中で、その衝撃の瞬間を見ながら唖然とした。私とコヤマ君はその時、ベルギーへ行って、コルニル先生のレッスンを受ける計画を立てていたところだったので、海外の出来事は無関心にはいられなかった。妹のユリコは相変わらずインド方面に旅行中だったし、事態は緊迫ムード一色となった。

 世界情勢を睨みながら、私たちはベルギーへの旅行計画について話し合っていた。

 無理をしていたであろうよっちゃんは、私がコヤマ君を連れて行くことについて、意外にも寛大にオーケーしてくれた。

 今から思えば、よっちゃんの方も何か、予期していたものがあったのかもしれない。そしてもしかしたら、私とのことは多少お荷物になりかかっていて、思い切ってふっ切りたかったのかもしれない。それはわからないが、とにかく私は、コヤマ君の留学への憧れの気持ちに応えて、そろそろ戻りたいと思っていたベルギーに彼を連れて行く約束をしたのである。

 そんな心情で過ぎる毎日のある日、高校時代の彼が、連絡をしてきた。しばらく会わないつもりでいた彼。今、彼に会えば必ず、別れ話になるだろう。でも彼は、私を必要としていた。私はそれに応えるのにはもう、限界を感じていた。

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