旅行・地域

2017年8月31日 (木)

続編二十七 チューリヒと、リギの山

 友人の待つチューリヒへは、パリからの便だったので、私たちはそこで一泊することにしていた。

 パリはさすがにブリュッセルに比べて物価が高く、ちょっとカフェでお茶しただけでもお金がすぐに飛んでしまう。

 けれど一日、何を買うわけでもなしにブランド巡りをしたり、コヤマ君と歩くパリの街は楽しかった。夜のセーヌ川はとても綺麗で、夜のベトナミアンは美味しかった。

 次の日の朝、私たちは、チューリヒへ向かうために乗るはずだった便をうっかり逃してしまう。ホテルでの朝食が美味しすぎて、のんびりしていたのが原因だった。空港のカウンターで、次の便に乗れないかどうか、意地でかけ合う。結局、七百フラン(一万四千円ほど)くらい払っての変更となってしまった。でもまあ、最初は「ムリ」と言われていたから、乗れただけでも良しとする。チューリヒ到着は午後三時になった。

 チューリヒは相変わらず綺麗な街である。駅では市場も開かれていて、ちょっと見るだけでも楽しい。彼はすっかりこの街が気に入ってしまい、住むならこんなところがいいなあと連呼していた。私の友人もまた、コヤマ君を大変気に入り、弟のように可愛がって、色々なところへ案内してくれた。小さい頃から、リギの山へ登るのが夢だったらしい彼の希望により、翌日はルッツェルンの街から、山頂へと向かう。よく晴れた日で、頂上には雪が積もり、澄んだ空気の中で食べたサンドウィッチは最高に美味しかった。これは彼女の手作りで、スイスのパンに厚切りチーズを挟んだだけのシンプルなものだったのだが、これが美味し過ぎて、格別な忘れられない味となった。

 その日の夜は、お決まりのチーズフォンデュをいただき、次の日はもう日本へと帰らねばならない日であった。

 朝、三人で森を抜けて散歩をする。午後は彼女の通う、チューリヒのコンセルヴァトワールへ。近代的な建物の、小綺麗なところだった。シャガールのステンドグラスのある教会にも入り、その美しさに感動する。本当にこの街は洗練されていて、ブリュッセルがとたんに汚い街に見えてくるほどである。

 私たちは空港で彼女とまた、しばしのお別れをした。彼女とはその後、日本にて共にジョイントリサイタルを開くことになる。

 帰りの飛行機はパリで多少の遅れがあったが、無事にエールフランスは飛び、成田には夜七時頃到着した。夜の到着便はなかなか良い。帰ったらそのまま眠れるからである。

 機内ではコヤマ君が毛布をかけて肩を寄せてくれたり、彼らしいさり気ない粋なはからいに、私はいちいち感動していた。日本に帰ったら一緒に暮らそうかと、私から強気に誘ったのも、パリの空港である。考えとくよ、なんて、かわされたけど。

 だいたいにおいて、思ったことをたいして考えもせずに口に出す癖のある私も、この時ばかりは本気であった。私はこの旅で、自分の気持ちを確信する。私は彼を、愛している。それは紛れもない真実だった。まあ今まで恋多き人生だったし、私がここで、年下の彼のことを本気だと宣言したところで、だあれも信じてくれないだろうと思ったけれど。

 そしてまた、私たちの日本での生活が、始まろうとしていた。彼はまだ幾分、私たちのことを迷っていた。それもそのはず、私はまだ、よっちゃんとのことをはっきりさせていない。彼と私は、イコール留学生活そのものだった。悩む。そしてコヤマ君の方だって、いろいろと考えなければいけないことがあった。人生とは、そんなに簡単で単純なものではないのである。特に、男と女という面倒臭い、恋愛においては。

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リギの山と、チューリヒの森散策。

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